大垣山岳協会

黒部川源流奥の院周回 №2 (中俣乗越~黒部五郎岳~三俣蓮華岳編) 2021.10.05-09

黒部五郎岳

【 個人山行 】 黒部川源流奥の院周回 №2 10月6日 2日目
中俣乗越 ~ 黒部五郎岳 ( 2840m Ⅲ△ ) ~ 三俣蓮華岳 ( 2841m Ⅲ△ )
丹生 統司

 2015年から2017年まで約2年半をかけ個人山行で岐阜県のⅠ等、Ⅱ等三角点訪問を行った。奥飛騨のヤブ山を徘徊する中で名もなき山の樹間や梢越しに雪を抱いたピラミダルな山を幾度か仰いだ。一つが笠ヶ岳、もう一つは黒部五郎岳であった。笠ヶ岳は若い頃に穂高へ通い詰めであり馴染みの山であったが黒部五郎岳は新鮮であった。いつかはと思いながら黒部の奥深い山につい躊躇が働いた。しかし、もう先送り出来ない年齢に気付いた。

<ルート図>
  • 日程:2021年10月5日~9日(火~土)
  • 参加者:単独
  • 行程:【2日目】10月6日(水) 霧雨後午後晴れ 中俣乗越5:50-黒部五郎岳7:50-黒部五郎小舎10:30-三俣蓮華肩・山荘分岐12:10-三俣蓮華岳13:00-三俣蓮華キャンプ場14:00
  • 地理院地図 2.5万図:有峰湖・薬師岳・三俣蓮華岳

 朝方、テントを叩く強風で目が覚めた。コルは風が抜けると読んで張り綱を1本だがハイ松に結んでおり功を奏した。外を覗くと星も薬師も見えない、掌を風上に晒すと小さな雨粒が確認出来た。昨日の夕焼けは何だったのだ。夜明けを待ちテントを撤収したが強風下での単独撤収作業は大変だった。必ず四隅一辺の張り綱をハイ松に結んで作業をした。油断するとテントを赤木沢まで持っていかれる。先の水も心配だが、それどころではなかった。

 雨具を上下着用したので寒くはなかったが夏用の薄い手袋は指が冷たかった。冬用薄手袋は用意していたがザックの奥深くに有りまたもチョンボをした。一つ山を越えるとガスの中にまた次の高みが現れる。幾度かそれを繰り返した。霧雨の中でも喉は乾いたがペットボトルの水は少量を口に含む程度を繰り返した。

 黒部五郎岳の肩(カール道分岐)に着いた。風は強くカールへ逃げたかったが山頂を踏まぬわけにはいかない。肩より少し上の岩陰で長めの休息をしてビスケットで腹を満たした。水はここで空になったがカールに降りればたらふく飲める。山頂はすぐそこだ。

 10分ほどで石組の中に祀られた不動明王に着いた。石に囲まれた中は暗くて良く見えなかったが明王の剣は無かった。写真を見ると嘗ては色付けされていたようだ。

 山頂にはもう一体不動明王が有ったが、これはまだ新しいと思った。

 Ⅲ等三角点、点名・黒部。三角点石柱には四国小豆島産の花崗岩が多く使われているがこれは違うようだ。点の記には花崗岩としか書いておらず産地が記されていないがこれは小豆島産ではない。明治39年撰定時の所有主は農商務省となっているが石柱の天端が丸く面取りされた三角点は見当たらなかった。もしかしたら見落としたかもしれない。

 山頂に他の登山者はいなかった。寒くて撮影を済ますと早々にカールを目指して下った。

 山頂から尾根を東に300mほど歩くと南へ急下降が始まり強風から逃れられた。水を求めて傾斜地をひたすら下った。途中で2人ほど登山者とすれ違い黒部五郎小舎が今期の営業を終え無人だと知った。小舎でラーメンでも食うつもりでいたが当てが外れた。

 傾斜が落ちた谷筋のガラ場の中に水音を聞き石を除けて水にありついた。カップで3杯ほど一気に飲み干しペットボトルにも補充した。そこから幾何も離れていない所でライチョウに遭遇した。それが8羽もいて向こうから近付いて来た。残念なのは霧雨でカメラのレンズが濡れておまけに手が悴んで旨く撮れなかった。8羽もの集団に出会ったのは初めてで少し興奮した。ひな鳥は親鳥と変わらぬほど成長し既に冬毛の支度に入っていた。

 カールは黒い大石が点在し黄金色の草原との対比が素晴らしいと感じた。好天で太陽の陽光が当たればもっと芝は黄金色に輝くと思った。

 ナナカマドが葉を落とさずに待っていてくれた。朱色の葉に染まって赤い実までもが朱色に輝いていた。

 これはシラタマノキの紅葉である。眩しいくらいの朱色で今山行中最高の紅葉だった。

 カールから黒部五郎小舎まではオオシラビソやダケカンバの林が長く遠かった。三俣蓮華側尾根の裾野に建つ小舎は西側が広い草原で黒部五郎から下りる尾根へ緩斜面で続いていた。今期の営業を終えて人気の全くない小舎を風除けにして長めの休憩を取った。

 黒部五郎小舎を出て三俣蓮華への急斜面を200mほど登っていると俄かに天候が回復した。振り返ると黒部五郎岳のガスが切れて山頂部とカールが見えていた。

 尾根に上がりきると鷲羽岳と水晶岳が見えて、その左に雲の平の溶岩台地がスカートのような裾野を黒部川の源流に落としている。黒部の水は溶岩台地の大きな円弧の裾野に沿って岩を噛み流れていた。

 三俣蓮華岳山頂へ登らず三俣山荘へエスケープするトラバース道の分岐を過ぎ尾根の高みに出ると薬師岳が臨まれた。ハイ松の原にナナカマドの紅葉が一際見事であった。

 雲が切れてやっと顔を出した笠ヶ岳、南の方は天候の回復が遅れているようで次々に雲が襲来して撮影の邪魔をした。チャンスを窺っていると山頂から下りて来た人に声を掛けられた。「この道は双六へ行きますよね」と念を押すように言った。尋ねられた私がビックリ「こっちは五郎へ行く道、全く逆方向」「地形図とコンパスは」と畳みかけた。きまり悪そうに「持っていません」と言うと慌てて引き返して行ったがすごく腹立たしかった。

 三俣蓮華岳山頂に着いた。槍ヶ岳の方は天候の回復が遅れており北鎌尾根は見えているが穂先は雲の中であった。三俣山荘と双六小屋は営業しているようで山頂にも3人、下のトラバース道を歩く登山者が2人ほど確認出来た。人の臭いが残る山頂だった。

 三角点石柱は二ツ、1個は点名・三ツ又、もう1個は旧農商務省の主三角点である。右の大きく欠損しているのは保護石だろう。点の記を確認したが標石を取り換えた記録はなく明治39年5月撰定のままである。今回の山行で旧農商務省の主三角点を3点確認出来た。

 山頂から北方向の展望である。明日は正面に見える鷲羽岳からワリモ岳、水晶岳を越えて高天原へ下りる。ワリモ岳の左は祖父岳でその南下の台地が雲ノ平だ。黒部川はワリモ岳と祖父岳のコルに消えている。黒部の水の最奥の一滴はあそこから浸み出しているのだ。

 山頂から東に急な斜面を落石に注意して100m下ると双六小屋との分岐に出た。浮石が多く歩き辛い道を北に辿ると緑の台地の中央に三俣山荘が現れた。

 山荘の指定キャンプ地に着くころには槍ヶ岳も顔を出し北鎌尾根の全容が眺められた。

 今日のキャンプ地は三俣山荘と決めていた、これより先には水場がない。山荘で¥2000のキャンプ料を支払い、1本¥900の500ml缶ビールを2本買って指定キャンプ地へ行った。先着は4,5張あるだけでサイト地は自由に選べた。水場近くの大石のある場所にした。先ずビールを飲みながら濡れ物を大石の上に干した。テントは組み立てて干し、フライはナナカマドに括って干した。缶ビール2本が空になる頃にはソコソコ濡れ物は乾いた。

 今夜は綺麗な水が豊富にあって、先ず昨日池塘の水で使用したコッヘルや水バッグを綺麗に洗った。水の有難さが身に沁みた。粗末な食事を済ますと5時半にはシュラフに入った。今回は軽量化で羽毛280gの夏シュラフとカバーを併用したが充分だった。夜半に外に出て天を仰ぐと昨夜と比較にならぬほどの星が煌めいていた。

№3へ続く


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