【 個人山行 】 黒部川源流奥の院周回 №5 10月9日 5日目
太郎兵衛平~飛越トンネル
丹生 統司
薬師沢出合から太郎兵衛平に登って来た時点で黒部川源流奥の院の周回はほぼ終わった。下山日の早朝、北ノ俣岳へ至る稜線から眺めた奥黒部の山々は朝靄に少し霞んでいた。
青春の日、黒部川の遡行を終えると一目散に槍ヶ岳迄駆け抜けた。その1ページを思い出しつつ老いて視野が少しは広くなったかと感慨にふけりながら眺めた景色である。
- 日程:2021年10月5日~9日(火~土)
- 参加者:単独
- 行程:【5日目】10月9日(土) 晴れ 太郎平小屋6:10-北ノ俣分岐7:15-北ノ俣避難小屋9:00-寺地山10:00-飛越トンネル登山口12:25
- 地理院地図 2.5万図:薬師岳・三俣蓮華岳
朝食は自炊室へ行くのが面倒で自室にてパン食で済まし小屋を出た。太郎兵衛平の朝は小寒い程度で薄い長袖シャツで充分だった。昨日登って来た東面薬師沢方向を眺めると黒部五郎、三俣蓮華、雲ノ平、水晶岳が影絵のようにシルエットで浮かんでいた。
9月に訪れた時と比較すれば登山者が少ない。大半は薬師岳と雲ノ平へ向かうようだが北ノ俣岳方向にも幾組かいた。三俣蓮華岳から雲ノ平へ周回するコースに人気があるようだ。
黒部五郎岳の右奥に笠ヶ岳の秀麗な山容が、何度見ても何処から眺めても素晴らしい飛騨の名峰である。
薬師岳は寺地山付近からでも眺められるが右肩から下の裾野を見ることが出来ない。これほど大きな山容を眺めるのも見納めである。
北ノ俣分岐手前の見晴らしの良い場所で休憩中に若い男女と一緒になった。今日は三俣蓮華山荘泊と言ったので黒部五郎はぜひカールを下るようにと薦めた。運が良ければライチョウ8羽の親子に会えるかもと、ついでにキャンプ場に忘れた水バッグの回収をお願いした。あのままでは只のゴミだ。空には秋を感じさせるうろこ雲が出ていた。
北ノ俣分岐を下ればこの景色ともお別れだ、さらば黒部川奥の院の山々。昨日太郎平小屋で素泊まりを渋々受け入れたのは、この景色への別れを敢えて遅らす未練も有った。
北ノ俣分岐を越えるとハイ松帯の下りが続く、それを過ぎると草原となり下部は池塘が点在している。寺地山の尾根を左に辿り鞍部を下れば飛越トンネル登山口だ。
此処の池塘は中ノ俣乗越で見た茶色に濁った水とは質が全く違う。水量も豊富で深さも有り底に堆積した澱が見えず澄んでいる。これなら沸騰せずとも飲めるような気がした。
秋を感じる雲だが何という雲だろう「さば」「いわし」「うろこ」いや「ひつじ雲」かな。
北ノ俣避難小屋が使用禁止と言うのは知っていた。今後のテントサイトや水場の確認の為に立ち寄った。水場は小屋前に在り冷たい水が溢れていた。しかし小屋は主要な柱の根元が腐植し修復の最中のようだ。テントも2張りほど張れそうだが適地とはいいがたい。
下山中に4人単独行者とすれ違い最後に4人パーティーと会った。4人組は下から聞こえてくる声の張りと勢いがこれまですれ違った登山者と全く違う。ザックのパッキング、ズボンの裾の汚れ、面構え、すべてに隙が無い。こちらから声を掛けた「もしかして飛騨ですか」、「そうです」の返事にやはり!一流山岳会で育った人と未組織の方は見分けが直ぐできる。「大垣です」と言って、しばし立ち話になった。彼等は「飛騨山岳会」会員で避難小屋の修復に登って来たのであった。「来年の県スポで飲みましょう」と言って別れた。
寺地山を越えると笠ヶ岳ともお別れだ、黒部の旅の終わりが近くなった。
北ノ俣岳のたおやかな山容ともお別れだ。そう言えば初日に避難小屋分岐で地形図を落としてから色々ドラマが始まった。あの時は山の神様が「水は補充しなくて大丈夫か」と水に気付くシグナルを示唆してくれていたが地形図の回収で満足してしまった。あそこで気付いていたらまた違った山登りが展開していた。ヘッドランプや冬手袋も雨蓋の直ぐ出る場所であったら・・・反省の多い山行だった。小さなトラブルだったがそれに対応し解決していくのが山登り、今回もまた山の神様に育てていただいた。
寺地山から長い樹林帯の下降が続く、クロベやコメツガの原始の森、泥濘の道ともお別れだ。
46年前の忘れ物を捜しに訪れた黒部川源流域の旅は4泊5日で終わった。若い方なら3泊で充分だろう。しかし、それだと46年前の私とちっとも変わらないのかもしれない。老いて早く歩けない分だけ周りの景色が楽しめた気がする。宿泊装備と食料の重さに喘いだ分だけ足元が見えて自分を量れた気がする。
山頂から遠くの景色を見渡して絶景に幾度か感動した。槍ヶ岳の見慣れた山容も三俣蓮華から見ると北鎌尾根を従えて迫力があった。それを楽しみに山登りをする人は高みを目指す。山頂を目指すことが登山であると信じている。
高天原から仰ぐ水晶岳や薬師岳はシラビソと笹原と湿原が相俟って素晴らしい景色だった。高天原峠から雲ノ平に至る原始の森に林立する巨木は神からの悠久の贈り物だろう。雲ノ平の雲上自然庭園にはどんな天才庭師でも太刀打ちできないと思えた。薬師沢から稜線に向かい広がる針葉樹と広葉樹のミックスした森の黄葉は外国いる気分にさせた。
46年前の忘れ物はその山の良さを見つけることだったのだろう。極めることに懸命だった若い日々を懐かしみ山の持つ魔力の深みにまた一歩嵌まって行くようだ。
黒部川源流奥の院周回・完
黒部川源流奥の院周回 №5 (さらば黒部の山々・太郎兵衛平~飛越トンネル編) 2021.10.05-09
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