【 個人山行 】 黒部川源流奥の院周回 №4 10月8日 4日目
高天原~雲ノ平~薬師沢出合~太郎兵衛平
丹生 統司
雲ノ平は北アルプス最後の秘境とかアルプス最深部などとロマン心をくすぐる言葉で良く表現される。黒部川の深い渓谷に囲まれた溶岩台地は隔絶された楽園のイメージを持っている。お花畑や自然庭園を理解する柔軟さや知識には乏しいが黒部川奥の院・周回の終盤にふさわしい自然の造形美を楽しみたい。
- 日程:2021年10月5日~9日(火~土)
- 参加者:単独
- 行程:【4日目】10月8日(金) 晴れ 高天原岩苔小谷4:40-高天原峠5:15-雲ノ平台地電波施設6:45-雲ノ平山荘7:40~8:00-薬師沢出合10:40-太郎兵衛平13:45
- 地理院地図 2.5万図:薬師岳・三俣蓮華岳
本日の行程で黒部川源流域の周回をほぼ終える。予定時刻を10分オーバーして岩苔小谷の瀬音と別れた。峠までは思ったほどの急傾斜ではなかったがランプの視野が狭いため谷筋の道が急に方向を変える時などは注意が必要だった。峠には30分ほどで着いた。
峠から最初は緩やかな登りだった。急登に差し掛かる手前で用済みになったランプを仕舞っていたら若者が一人降りて来た。熊が怖いと言ってラジオを鳴らしていた。互いに人が恋しかったのか話が弾み15分ほど立ち話をした。私と逆コースを歩く計画だが温泉沢から主稜線までの踏み跡を心配していたので励ました。温泉に美人が4人居るとも言った。
地形図を見て急登が有るとは思ったが梯子が連続するのは想定外で有った。丸出しになった木の根が登山靴で踏まれ白化しているのを見て罪を感じることがある。貴重な巨木や原生林維持のためには人工物で根を痛めぬ工夫が必要なのだろう。
急登を登りきると傾斜が落ちて緩やかな尾根の台地に出た。チングルマの綿毛が露を含んで綺麗だった。この付近は「詩の原」と呼ばれるようだ。
ハイ松の林の対岸に薬師岳が朝の陽光を受けていた。山頂部に雲は有るが昨日までとは違い青空が広がっている。雲はすぐ消えるだろう。
黒部五郎岳でも三俣蓮華岳でも雲ノ平もそうだがナナカマドの実が大きい。標高2000m以下で見る実は5㎜ほどだが高所のナナカマドの実は10㎜を越えるほどで実に大きく赤く艶やかだ。この付近は「奥スイス庭園」と呼ばれているようだ。
ここも「奥スイス庭園」の一部のようだ。
これは電波塔で携帯の基地局ではないようだ。実は家内に初日は避難小屋だから携帯は通じないが2日目以後は山小屋が有るので連絡を入れると約束していた。9月に小屋を利用して携帯が通じたので山小屋は全て施設が整っていると思っていた。ところが黒部五郎がダメで三俣蓮華も通じず、もちろん水晶岳でも、高天原は問題外で今日で4日間連絡が取れていなかった。今朝会った若者に尾根から台地に上がった辺りが山荘より電波状況が良くて通じると聞いた。電源を入れた途端に家内以外にも留守電とメールが一杯、田舎の親戚に不幸があった。家内と兄弟には平謝りしたが母親が存命中で少し考えさせられた。
雲ノ平山荘は台地の高みに有った。山荘前のベンチには一組の男女が帰り支度をしていた。他にお客はおらず掃き掃除をしていた係員に缶ビールを注文した。小屋前から祖父岳に広がる草原には無尽蔵の石が絶妙に配置されており今更ながら自然の造形師に敬服した。
周囲の山の展望も素晴らしく特に黒部五郎と笠ヶ岳は何処から見ても特定できる飽きない山で岐阜県の名山だと思う。自然を肴にビールが美味しかった。
薬師沢に降りる前に「アルプス庭園」の看板を見て覗くことにした。木道に案内され40mばかりの丘に登ったが石とハイ松の調和に見とれた。山頂は祖母岳と看板が有った。
振り返ると昨日越えた水晶岳が見えて北と南の双耳峰が確認出来る。改めて周囲を3000mに近い山に囲まれていることに気付かされる。足元にはチングルマの綿毛が、
ナナカマドとハイ松の林の向こうに裾野の広い威風堂々した薬師岳が、やはり黒部の盟主どこに居ても見守っていてくれているようだ。
黒部五郎岳と北ノ俣岳である。中央の窪んだ鞍部が中俣乗越で初日のキャンプ地である。今思えば濁った池塘の水であったが温めるのには役立った、助けられたのだ。
「奥日本庭園」の看板が有った。ハイ松と大小の石や砂礫が枯山水の雰囲気を感じさせた。背後の水晶岳も庭園の背景に一役買っているようだ。
薬師岳の向こうにスゴノ頭と越中沢岳が重なって見えた。その背後は立山だろう。青空の中に白雲を気まぐれに刷毛ではいたような絵に見えた。
「アラスカ庭園」の看板が有った。ハイ松と背後のオオシラビソがその雰囲気を作っていた。背後の山は水晶岳。
木道が途切れると悪路の急下降が始まった。薬師沢出合まで高度で約450mの下降だが苔むして滑りやすい大石が重なり合った悪路が延々と続いた。行けど行けども着かない。薬師沢出合が本当に遠く感じた。
やっとの思いで薬師沢出合に着いた。先ず赤い吊り橋が目に留まり次に橋に至る垂直の梯子を見た。昭和50年の記憶を辿るが全く思い出せなかった。当時は小屋に立ち寄らず300mほど上流でキャンプしたので橋は利用しなかったかもしれない。黒部川の水は冷たく豊富であった。片手で一掬いして飲み両手で顔を洗った、これが46年ぶり再開の挨拶だった。
小屋では缶ビールを注文して黒部川を見下ろして飲んだ。
薬師沢出合から太郎兵衛平までの道中の景色も印象に残った。針葉樹の緑の中にダケカンバと思われる黄葉が点在して印象的だった。
笹原とオオシラビソの景色にも見とれた。木道の途中にテーブルが有り休憩が出来るようになっていた。今日は太郎平小屋で泊まると予約もしていないのに勝手に決めてのんびり休んだ。薬師沢の橋を渡っている時イワナだろう魚影を確認した。岩苔小沢でも釣りの時間は有ったが禁漁期間であり釣具は持参しなかった。
薬師沢の最後の二俣を過ぎて登山道は尾根道となった。黒部の水と完全にさらばである。振り返ると正面の雲ノ平の溶岩台地がお椀を伏せたような山に見える。左奥が水晶岳、右奥が三俣蓮華岳である。遠くなった。
北ノ俣岳の稜線が近くなると人が多くなった。太郎平小屋に着いたがやることがないようで付近を散策している人が多いようだった。
太郎平小屋に着くと先ずビール500mlを注文し、ついては小屋の「予約はしていないが今夜の宿を」とお願いしたが素泊まりならOKだが食事はダメと言われた。こちらは「食事」に飢えているから宿泊をお願いしているのだ。まだ午後2時前じゃないかと言ったが取り付く島もない。「ラーメン」でもと言ったがそれも断られた。正直気分が悪かった。時間的には北ノ俣避難小屋には辿り着けるのだが一旦人の群れに戻ると気力が萎えていた。素泊まり料金¥6500ともう1本缶ビール500mlを注文して支払った。
最後の夜を豪華にという夢は破れた。山の行程は成り行きで計算通りに旨くは行かないのが常で山小屋の予約は出来ない。きっちり決まったコースは登山の魅力を半減して面白くない。しかしその代償で今夜は自炊室で昨日までと同じ防災用フードをつつく羽目になった。明日は北ノ俣まで1時間半の登りで後は下り一辺倒、早く下りて旨いものを食おう。
№5へ続く
黒部川源流奥の院周回 №4 (高天原~雲ノ平~薬師沢出合~太郎兵衛平編) 2021.10.05-09
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