大垣山岳協会

冬季限定コース・伊吹山東面周回 2024.02.02

伊吹山

【 個人山行 】 伊吹山東面(揖斐川町春日古屋) NT

 伊吹山は昨年の表道崩壊以来滋賀県側に於いては冬季に至っても未だ入山規制が解除されていない。上野登山口はともかく滋賀側全域で冬季も規制対象というのは到底理解できないが抗う気もない。伊吹山の半分は岐阜県である、滋賀県を避けて岐阜県側の春日古屋の尾根を周回した報告である。

<ルート図>
  • 日程:2024年2月2日(金) 曇り後晴れ
  • 参加者:NT(単独)
  • 行程:古屋駐車地7:32-尾根上8:20-1060P11:06-ドライブウェイ着11:24-標高830m下降尾根着12:41-古屋駐車地14:27
  • 地理院地図2.5万図:美束、関ケ原

 春日古屋へ着いた。さざれ石公園へ通ずる道は除雪されていたが工事中の看板があり進入は止めた。笹又・さざれ石公園からの谷と長谷川に挟まれた下降路に予定している尾根が正面に見えている。尾根末端の急傾斜面に岩が見えており険しそうだ、橋はなく渡渉である。

 登路予定の尾根には階段が有った。雪に埋もれた茶畑の傾斜地を更に登ると古い道に出た。嘗て古屋の住人が笹又の耕地へ通った道で地形図には破線で記載されている。

 旧道は雪の斜面となっており気の抜けないトラバースが続いた。さざれ石公園への道が真下に見えてスリップは命取りとなる。尾根上に一番近いと思われる所をツボ足で直上したが腐葉土が薄く乗った土斜面が思った以上に悪い。ピッケルのピックを使いたいがザックに縛っており足場の悪い斜面途中での作業は面倒でザックを落とす危険もあった。2本のストックも邪魔物だった。尾根へ上がりきると両手が自由になってヤレヤレでホッとした。

 尾根はヒノキの植林帯で笹等の下草もなく歩きやすかった。笹又から地形図に記載のない林道が延びて来ており終点となっていた。周回の時間がなくなり引き返して下山となればこの道を使おうと決めた。先ほど登りに使った斜面は下る気にならない。

 高度を稼ぐと笹又側は雑木林となって明るくなった。キノコが出そうなナラ系の木が多くヒラタケがないかと目を凝らして歩いたがサルノコシカケ類以外は見当たらなかった。

 植林帯を抜けてからは笹又側から吹きぬける風が冷たかった。昨夜の天気予報で寒くなると覚悟はしていたが晴れマークを信じていたので予報官へ恨みをつぶやき歩いた。しかし冷え込みのせいでワカン歩行は楽であった。太いブナの幹に深いクマの爪痕を見つけた。

 標高900m辺りからはカルスト地形となり雪面を求めて右へ左へと迂回をさせられる。冷え込みのお陰で雪が堅くて助けられたが暖かくなって雪が緩めば一歩踏み出すごとに穴凹の罠に嵌って体力の消耗を強いられただろう。

 標高1060mの最高点に立ってこれから向かう尾根とドライブウェイの合流点を眺めた。点名・元地1206,3mがオニギリのような山容でたちはだかっていた。正面から登るつもりであったがドライブウェイの法面がコンクリート擁壁となって取り付く島もないようだ。

 雪稜の左側斜面は笹又からの夏道の抜け出し口である。1月24日の大雪はそれなりの雪庇を笹又側へ発達させていたようだがその後の雨でほぼ落ちている。今日の雪は硬く状態も良くピッケルとアイゼンを駆使すれば夏道の森林帯へ下降出来そうだった。降雪直後や雪が緩めば雪崩の危険が有って登下降を控えるのが無難だろう。

 北尾根静馬ヶ原へ続く分岐辺りの雪面にスノーシューの足跡を見つけた。足跡は急な雪稜を登ってドライブウェイへ続いておりそれを追った。当初計画では北尾根の山頂台地稜線から頂上へ行き南東尾根へ周回、ブナ林でテント泊をして濃尾平野の夜景を眺め一夜を過ごす予定だった。だが妻の反対に抗しきれず日帰りを約束させられていた。

 南東尾根のブナ林に未練はあった。だが11時を過ぎており3月で75歳を迎える現在の体力では日帰りの周回は無理だ。計画を短縮してドライブウェイを歩き春日古屋へ下ることが最も無難な選択であった。尾根から抜け出たドライブウェイ車道は強風で雪が飛ばされ舗装がむき出しである。ワカンの爪を痛めぬようにつま先立ちして雪を求め早足で歩いた。

 吹きさらしを過ぎて雪が覆った道となり歩きやすくなると雪面にまた古い足跡を見つけた。もしかして同じ尾根を目指し下降にしているのかも?同志を得たように思えた。

 目指す古屋へ下りる尾根が見えている、案外近くに見えて30分も歩けば行けそうな気がした。そう甘くないのは何度か学習しているはずだが若い時の感覚が未だ抜けきれていない。老いを自覚できないのが老いなのだろう。

 歩いている途中で水音に耳を欹てた。「息吹大岩不動尊」と彫られた花崗岩石と不動明王木像が有って湧水が弧を描き落ちていた。正午を過ぎて青空が覗き暖かくなると雪が緩み歩行で汗ばみ喉が渇いていた。落ち口の水を手ですくって飲むと美味しかった。

 伊吹山北端山頂台地の北尾根頂上部東面が青空に浮かんでいる。暖かくなって雪が緩みワカンが沈みだし単調な道路歩きに飽きていた。青空の下でピッケルとアイゼンのコンビネーションでの稜線歩きは楽しいだろうと少し残念な思いと悔いが湧いていた。

 東の彼方に御嶽山が見えて乗鞍岳から穂高、そして白い帯となって北アの連山が繋がっていた。周りの景色に夢中になっていて足元を見ると追っていた足跡がいつの間にか消えていた。笹又へ急な支尾根を下降したのだろうか。

 北尾根稜線が遠くなった、雪も緩み歩き辛くなって当初予定の30分はとうに過ぎている。やはり目論見通りに歩きが出来ない現実を今日も思い知った。山頂を諦めコースを短縮したのはやはり正解だったようだ。

 南東尾根に出合う所でまた新しい足跡を発見した。足跡の主は南東尾根から山頂を目指したようだった。ドライブウェイの足跡を辿って進むと上平寺川戸谷へ下りる支尾根から登って来ていた。表道の崩壊で滋賀県側は立ち入りを規制しているが山屋の開拓精神まで抑圧は出来ないようだ。南東尾根は濃尾平野の最高の大展望台なのだ。

 県境の南東尾根はドライブウェイと不即不離(ふそくふり)しながら川戸山、相川山、関ヶ原古戦場跡の笹尾山へと続く。標高899m(Ⅳ等△点名・展望台)直下のS字のヘアピンカーブとなる所で東の春日古屋に向かう支尾根を下山ルートに決めている。直接関ケ原へ下りたいが車を古屋へ停めて有り止むを得ない。単独だとこういったときに不便である。

 ガードレールを跨ぎ今シーズン初めてピッケルを使用し急斜面を下った。北斜面の雪が堅かったのでワカン履きでヘアピンカーブをショートカットしたのだ。降りた先に標高830mの標識があった。ここから東の春日古屋へ向かって支尾根を下る。

 尾根にはピンクの目印が残されていたが間伐が行われていたようなので山仕事の為と思われた。だが目印は最後の分岐標高500m辺りで見失った、おそらく「さざれ石公園」側へ下りていると思われた。今朝の見分で下降尾根末端は急な岩と思えていたので最後の50mは長谷川側へ雪を拾って下ったが最悪で岩の方を選ぶべきだった。長谷川沿い民家の50mほど上流へ下りた。冬季閉鎖中の県道257号が川底から3mほどの石垣となって立ちはだかっていた。運よく渡渉した所に1mほどの高さに足場になる草付が有って足場にすると両手が道の端に届いたので鉄棒の懸垂の要領で這い上がった。

 関ケ原へ至る冬季閉鎖中の県道257号の雪道を川下へ100mほど歩いて駐車地へ着いた。午後2時半前の下山だから旨くいった方だろう。が、本日の登路、下山路ともに使用した尾根末端は急すぎて悪かった。両尾根とも杉と檜の植林帯であるので丁寧に捜せば安全な道があると思われる。完

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