大垣山岳協会

秋のテント泊山行・槍ヶ岳(槍平~槍ヶ岳~新穂高)№2 2022.10.08-09

槍ヶ岳

【 一般山行 】 槍ヶ岳 ( 3180m Ⅱ△(亡失) ) 丹生 統司

 槍ヶ岳への出発前日は雨で関ケ原は相当冷え込んで寒かった。念のために槍ヶ岳山荘のライブカメラをチェックすると雪で有る。急遽、軽アイゼンを持参するようメンバーにメールを送信した。敢えて12本爪としなかった。それを必要とした場合の槍ヶ岳の穂先登山は既に冬山登攀である。その場合、彼らの技術では余計に危なく槍ヶ岳は肩の小屋で諦めてもらうしかない。一応ザイルは2本用意して出来ることはやる準備はしていた。

  • 日程:2022年10月8~9日(土~日)
  • 参加者:L.丹生統、SL.後藤正、加藤美、藤野一、三輪唯、村田美、森川浩、山本知
  • 地理院地図 2.5万図:笠ヶ岳、穂高岳、槍ヶ岳
<ルート図>

10月9日(日) 晴れのち曇り午後から雨

  • 行程:槍平4:10-飛騨乗越7:45-槍ヶ岳肩の小屋8:15-槍ヶ岳山頂8:55~9:10-槍ヶ岳肩の小屋9:40-飛騨乗越10:10-槍平12:55~13:35-白出出合16:20-深山荘前無料駐車場18:10

 今日は槍ヶ岳を往復して新穂高迄、強行軍であることを全員が共有する必要がある。しかし、4時出発厳守が10分超過のスタート、これは絞めてかからねば新穂高への帰りもヘッドランプの世話になりそうだ。午前5時半、明るくなってヘッドランプを仕舞うと笠ヶ岳と抜戸岳が青空に浮かんでいた。

 千丈乗越分岐には救急箱が置いてあり救急用品の外にヘッデン、非常食、水、乾電池、靴のソールの修理用品まで置いてあった。

 今年は紅葉が今一つのようでナナカマドの実は既に落ちて葉は焦げたように黒くしみて汚なかった。見上げる飛騨乗越は遥かに遠い、それでも飛騨沢カールの只中に入ると北アルプスに抱かれた気分になり会話が弾む。

 誰かが彼方の尾根に赤い屋根の小屋が見えると言った。弓折岳に通ずる小池新道沿いに有る「鏡平山荘」だ。鏡池に映る槍ヶ岳、穂高の絶好展望所で背後に双六岳が見えている。左に抜戸岳と笠ヶ岳が見えているが俄かに雲が湧いて山頂部を隠し出している天候が悪化する予兆である。これはのんびりできない。

 飛騨乗越に着くと槍・穂高東面の山並みが突然目に飛び込んで来る。正面に常念岳が存在感のあるピラミダルな山容を誇って、手前に槍から延びる東鎌尾根が大天井岳へと続いていた。槍沢カールの中に殺生ヒュッテの赤い屋根が見えて行き交う登山者がアリのようだ。

 槍ヶ岳は向かう正面に穂先を少し東に傾けて見えている。何より飛騨乗越からの稜線は風の通り道であり景色に見とれていると防寒を忘れてしまう。防風着の着用を指示した。

 槍の肩からの展望である。先ず最奥、雲海奥の山並みは南アルプスでその左端背後に富士山が見えている。それから左に離れた山並みは八ヶ岳である。中央中の山並みは常念岳から蝶ヶ岳であり、最右の黒くゴジラの背に見えるのは前穂高北尾根である。

 穂先の雪は思ったより少ないようで軽アイゼンは置いて行くことにした。多少の心配は有ったが慣れない爪での岩場登りの不安の方が上回った。簡易ハーネスを着用しておればザイルを直ぐ使用出来る。後藤SLにザイルを肩掛けで持参するようにお願いし人混みの小屋から離れ穂先に近い場所へ移動して待った。見上げる穂先へ向かう人は少なく今なら混雑を避けて登るチャンスなのだがメンバーは中々現れず時間が過ぎていった。

 待つことにしびれが切れる寸前に仲間はやって来た。夏の岩講習会から月日が経ち、剱岳合宿も中止となって簡易ハーネスの着用に手間取ったようだ。いよいよ三点支持等の岩登り技術講習会の成果を披露する時がやって来た。後藤SLを先頭に出発した。

 急角度のハシゴが続き高度感にくじけそうになるが手を離さねば落ちることはない。伊木山、高木山、芥見権現岩、石水渓での岩講習はもっと難しく苛酷だったことを思い出せ。

 岩の急な箇所には雪が付着しておらず登りやすいが岩棚等の平らな部分に雪が残り凍って滑りやすく油断が出来ない。出来る限り岩を掴み足場も岩、雪を避けるよう声を掛けた。

 ほぼ垂直のハシゴを登りきると山頂に飛び出た。目の前に廃番になった嘗ての「Ⅱ等三角点標石柱と盤石」その周りは使われていた保護石だろう。山頂に立ったのは何年ぶりだろう?2014年5月に東鎌尾根から肩の小屋まで来たが混雑を見て中田、後藤君を行かせ小屋でビールを飲んでサボッた。その前というと長男と次男を連れて登って以来だ。その時次男は小学校4年生だったが今年9月に40歳になったと聞いた。随分昔に登って以来である。

 この日は太陽が隠れていたが雲は薄く高く視界は遠く迄効いて山頂から360度の大展望を満喫出来た。先ず、狭い山頂を足元に気遣いして祠の前へ移動し記念写真を撮った。その後個人で好き勝手に自由時間としたがそうそう長くは滞在出来ない。狭い山頂が混雑するのは時間の問題であるからだ。

 15分ほどの滞在で山頂を後にした。登り以上に下りは慎重な気遣いが必要である。なぜならハシゴや鎖場の最後の降り口は平らで足の踏み場には必ず凍った雪が残っているからである。慎重に慎重にと自身に言い聞かせて次のステップを捜した。

 此処まで来れば大安心、安全地帯迄降りて万歳!良くやりました。頑張りました。

 肩の小屋迄帰って来ると出発時間を告げた。これまで他の山で時間管理を厳格に指示することはなかったので戸惑ったことだろう。しかし、新穂高までの長丁場と下降気味の天候を鑑みれば止むを得なかった。トイレ、土産物、食事を決められた時間で済ますのも山のレベルが向上すれば共に求められる。一気に飛騨乗越を下って槍ヶ岳とバイバイした。

**下山中の講習**
 今朝方ヘッドランプでの行動中に中岳下の「中の谷のガラ場」で一時道を見失った。下山時に現場で確認したが昼間見れば小さな谷のガラ場で目印も明瞭であった。暗闇の中ではヘッドランプの視界は狭く短い為にガラ場などでは踏み跡を見失いやすい、一度見失うと発見は容易ではない。夜の行動では、このことを充分理解しておく必要がある。そして捜索も代表が上流と下流に2組に別れて捜せば発見はより早かった。

 絶対にやっていけないことは全員を引き連れて「あっちでもない、こっちでもない」を繰り返すことである。これはメンバーの体力を消耗させるだけで未熟なリーダーが侵すパターンである。

 槍平のテント場に着くや出発時間を決めて先ずテントの撤収を急ぐように、ヘッドランプを出しやすい雨蓋に入れるよう指示した。トイレや食事はその後でと、これも短時間出立の要領で有る。時間は無情に過ぎて行くメンバー任せにしておけない。

 しかし、テン場から小屋迄の移動中にポツポツと落ちて来た。森林帯迄行けば雨具は不要とみてザックカバーを指示していると俄かに雨粒が大きくなり結局ここで雨具を着けた。

 予定時間をかなり遅れて出発した。雨は降り続けて靴で踏む岩は滑りやすく泥濘も有って思うように歩けなかった。若者など何組かに抜かれたが焦りは禁物であった。平均年齢60歳を越えるパーティーである転倒やスリップでの骨折や捻挫の回避が最優先である。

 白出沢出合を渡りきると林道歩きとなり楽になった。しかし、穂高牧場を過ぎると暗くなり足元が怪しくなって来たがヘッドランプは我慢して歩き続けた。穂高ホテルやロープウェー駅前の灯りに照らされた舗装道路を歩くのは初めてで新鮮だった。どうやら無事故で終われそうな安堵感に浸って黙々と歩いた。そしてテント泊山行で得た経験や知識で逞しくなった仲間の足取りを眺めて槍ヶ岳山行の成功を確信した。完


コメント