大垣山岳協会

蘇った奥美濃の鋭鋒・蕎麦粒山 2022.02.26

蕎麦粒山

【 個人山行 】 蕎麦粒山 ( 1296.6m Ⅱ等△ ) 丹生 統司

 2月は登山に厳しい季節であるが天候に恵まれれば一番美しい山に出会える。近年貧雪を嘆いていたが先週末も北陸地方は多量の降雪が有った。蕎麦粒山も嘗ての孤高の鋭鋒を取り戻しているはずで大きく発達した雪庇に用心しながら雪稜に足跡を残すチャンスである。

<ルート図>
  • 日程:2022年2月26(土) 晴れ
  • 参加者:L.丹生統、大谷早、廣瀬美、林 旬、三輪唯、吉田千
  • 行程:旧スキー場7:25-大谷川渡渉8:10-標高1000mJP10:20-蕎麦粒山12:35~13:25-標高1000mJP14:45-大谷川渡渉16:05-旧スキー場16:55
  • 地理院地図 2.5万図:美濃広瀬

 連日の降雪で大谷林道の除雪がされておらず日帰りで蕎麦粒山の往復は難しい。蕎麦粒山登頂を確実にする為に前日(25日)にジャンクションピーク迄5時間を費やしラッセルをしておいた。辛いのは片道約1時間の林道を2日連続で歩くことであった。大谷川の渡渉は岩に雪が乗っており注意が必要であったが水が少なく思ったよりスムーズにいった。

 駐車場には先着の車が3台、支度をしていると又2台来た。いずれも湧谷山が目的で昨日もトレースがスキー場の斜面に残っていた。1080mの湧谷山を見てこちらの高さを測る。

 昨日のジャンクション迄のルート作りは夏道を無視して大谷川を渡ると直ぐ斜面に取り付いた。傾斜は強く疎林の幹が雪を溜めてキノコ雪をつくり更に傾斜を増していた。しかし有難いことに湿気が多い雪で踏むと締りが良く根雪がワカンを受け止めてくれた。蕎麦粒山の前山(偽ピーク)が右手に見えていた。

 昨日残したトレースは本日の為に壊さぬよう隣を歩き気遣いをして下山した。しかし、少なくとも2名のスノーシューとワカンの足跡を林道で確認していた。尾根の急登ではアイゼンを使用した足跡を確認した。今日の為に登り専用に残した気遣いのトレースが他人に先を越されて心中穏やかではなく所々壊されていると「下手くそ」と心で叫んでいた。

 昨日の努力が実を結び快調に標高1000mのジャンクションに着いた。この付近には3ヶ所ほど目印が立ち木に残されていたと記憶しているが確認出来たのは写真の山毛欅の木に捲かれた1本のみである。無雪期にこの目印はかなり高位置に有ったと記憶しているので3mほどの積雪であろうか。

 今日は土曜日で「もしかして、挑戦欲のある者に先行されないか?」の不安は有ったが此のところの降雪と深雪の長い林道歩きが想定され今週末の蕎麦粒山は敬遠されると思っていた。ジャンクション迄のラッセルで時間を費やし最低鞍部までで時間切れとなり往復は無理と判断するだろう。蕎麦粒山まで足を延ばす者等いないと決めつけ油断があった。

 ジャンクションから東の蕎麦粒山を目指して真新しいスノーシュー跡が残されていた。「こんなはずではなかった」が先行者の雪面に残された跡を追った。

 大谷川の対岸に黒津山(1193.4m)と谷の最奥に五蛇池山(1147.5m)を見て進む。林旬さん、ソバズルと蕎麦粒山から天狗山まで周回したのは2013年3月5日~6日であった。ソバズルがまだ可愛い顔をしていたと記憶するが随分遠い日のような気がする。

 蕎麦粒山の最低鞍部付近には立派なブナが多く残されている。風雪で叩かれて荒れた幹肌と重い雪に耐えてくねった枝は古木の雰囲気が有って一際目を引きつける。先行するトレースは右に左に千鳥足状に曲がって距離の無駄が多く「余分に歩かされる」とぼやいた。

 今日参加の女性4名は我が会の猛者四天女王と誰もが認める。少し離れて撮影アングルのチャンスを伺い捜していると直ぐ置いていかれ、息を荒げて追うが追いつけない。

 尾根は起伏が出て来て蕎麦粒山らしくなって来た。徳山側から吹き抜ける風が坂内側に雪庇を発達させて久方ぶりに冬山を実感した。すると上から声が聞こえて3人の若者が下山して来た。やはり若い、もう登って降りて来たかと思ったら、意外やこの先の雪壁が越えられず断念したという。今日の為に折角昨日ラッセルしたのに先行を許し後塵を拝して口惜しい気持ちがあった。トップに出られる喜びが俄かに湧いた瞬間だった。

 先行していた若者たちは天然ヒノキが有るところの雪稜で断念していた。坂内側には発達した雪庇が出ており油断できないが雪壁上部をよく観察すればスロープが坂内側に堕ちている。そこは急だが雪庇ではない、その雪壁に向かって登れば雪庇から逃れられる。ピッケルのブレードでハングした雪面をカットしシャフトを支点にして難無く乗越した。

 天然ヒノキの難所を越えると視界が一気に開け広瀬の集落が見下ろせて展望が効いた。前方は山頂へ続く雪稜、背後には金糞岳や貝月山が一望である。絶景に撮影タイムを設けた。

 これから、この雪稜は我々の落書きのキャンバスだ。ザイルのトップに立った者の権利のような高揚感とシュプールを残せる歓びが湧いた。とはいえ雪庇は怖い「ピシッ」と音がした瞬間に亀裂が入り壊れるのは一瞬である。徳山側の立ち木の位置を意識して左に寄るよう何度か後方から声を掛けた。ナンガパルバットを登った超人ヘルマンブールでさえもチョゴリザで雪庇を踏み抜き消えてしまった。(写真は広瀬美提供)

 遠くからでは急斜面や雪庇の発達具合はよく判らなかったが傍まで来ると結構大きい。一旦登頂を諦め下山していた若者の内2名が我々のトレースを追って附いて来ていたのだが振り返ると姿が消えていた。どうやら諦めたようである。

 急傾斜の雪壁のような斜面では群青色の天空へ向かって延びる梯子を登っているような快感である。蕎麦粒山の一番美味しい核心部でトップに出られた歓びで大満足である。

 蕎麦粒山は地形図で表現できない鞍部がある。ジャンクションから絶えず山頂だと思い仰ぎ見ていたピークは前山(偽ピーク)で越えたと思ったら鞍部が有り、その先にピークが見えてがっかりする。先行していた若者達が断念した地点以降トップでラッセルしていたYC嬢が高みの抜け出し迄後僅かを残して交代した。

 その先にも小さな偽ピークが2つあり最高点へは我慢の登高が続いた。トップを行くHM嬢は此処が最高点では?と振り返るがまだまだその先とつれない返事を送った。

 どうやら山頂に到達したようだ。満足感に思わずガッツポーズの右手を挙げる仲間達、白い稜線の先にはもう高みは存在しない。ヒマラヤの高峰の山頂に居るような錯覚の快感に陥った。人の気配も一点の汚れも全く感じさせない白い頂であった。

 白い稜線は緩いカーブを描いて小ソムギへたおやかに下っている。三角錐の小コソムギは五蛇池山に向かって東に急峻な尾根を落とし細い小さい峠で結ばれていた。小ソムギは格好良いアルペン的な山容で誰が「小ソムギ」などと無礼な名付けをしたのか叱ってやりたい。遠くに能郷白山が前山と磯倉までを取り込んだ大きな山塊となって見えていた。

 天気が良すぎて気温が高かったせいか薄くモヤがかかり御嶽や乗鞍、穂高は肉眼でかろうじて確認出来る程度で有った。能郷の左に荒島岳が見えて背後に白山が灰色に霞んでいた。荒島岳の左に若丸山が有り、少し離れて冠山の南壁が黒く見えて両山の中央背後には銀杏峰と部子山が有った。

 右端の白い双耳峰は金草岳で中央に笹ヶ峰、少し離れて美濃又丸、左に突兀としたピラミダルな烏帽子山、その左に吊尾根で結ばれた高丸が三周ヶ岳と重なって一ツの山塊となって見えていた。

 三周ヶ岳、高丸の左に上谷山から土蔵岳へ至る山並みと背後の横山岳が重なっていた。更に南へ目を転じると金糞岳が坂内へ北尾根を延ばし、更に南にブンゲン、貝月山、鍋倉山が確認出来た。伊吹山のお椀を伏せたような特異な山容は貝月山に邪魔をされているのか重なってか確認出来なかった。

 飽きることのない山頂滞在50分であった。下山前に全員で広瀬集落まで届くほどの大声で万歳を三唱した。

 今回は登頂をより確実にするために前日に定職を持たない4人でジャンクション迄ラッセルをしておいた。当日、先行する足跡に気付いた時は「やられた」と思ったが登山を終えてみると蕎麦粒山核心部の美味しい所は全部戴いていた。今季の多雪は雪庇を発達させて雪稜を要塞化し孤高の蕎麦粒山を蘇らせた。久方ぶりに鋭鋒へ登山が出来て満足、当日の天気も見事に的中しこれまた大満足である。

 今日、我々に先行していて偶然に出逢った若者達、そして、このレポートをご覧の貴方!大垣山岳協会の門を叩かないか、山に登るならピッケル等道具の基本技術や知識、地形図の読図を身に付けよう。我が会は来るもの拒まず山の参加は自由で束縛はない、一年が過ぎれば成長した自分が必ず確認出来るだろう。完

コメント

  1. より:

    先日 蕎麦粒山で会った者です
    活動日記拝見させていただきました ヒノキの雪庇越えれるんですね 会の方はちがいますね
    僕達素人はあの壁を見て 立ち尽くすだけでどおすることもできませんでした。
    後を追って行こうとしたのですが 息子だけ下山したのと 一度下山を決めて再びであったのでメンタル的にあきらめました。
    最後に知らなかったとは言え 前日5時間かけて作られた大事なトレースを僕達素人が荒らしてしまった事をお詫びいたします
    申し訳ありませんでした にもかかわらず山では暖かいお言葉をかけていただいて心の広い方々だと感動しています。
    何かのきっかけで協会の門を叩くようなことになりましたら その時はよろしくお願いします 失礼します