大垣山岳協会

「奥美濃の山」登山小史(2)

TOPICS・随想・コラム

月報「わっぱ」 2022年7月(No.488)

「奥美濃の山」登山小史(2) - 戦前編(2) -  SK

 『樹林の山旅』の冒頭には「奥美濃はかくれたる登山地帯である。(中略) 新しき山への希望を持つ人達に、美しき樹林に滿ちた、變化多き溪谷に惠まれた、自然のまゝの日本の山(所謂アルプスと稱するものゝ模型でない)を歩きたい人に、深い自然の中に融合した人間と自然との生活、山住人や傳説の香り高き山地への彷徨の足を進めたい人に、かうした意味で私は蕪筆をかへり見ず奥美濃紀行-樹林の山旅-を送りたいと思ふ。」と記されています。

 そして、「天魚の溪谷(釋迦嶺を繞る谷々)」から始まる「案内的紀行文」18章とともに、「揖斐川源流略図」「川浦谷略図」「能郷白山附近略図」「石徹白高原略図」「奥美濃概念図」を収録しています。

 同図の範囲は、北は大日ヶ岳、南は伊吹山、東は高賀山、西は横山岳までで、われわれがイメージする奥美濃の山域にほぼ重なります。同書は、そのロマンあふれる名文で岳人の心をとらえ、「奥美濃」の山々が世に知られるきっかけとなりました。

 同書の出版された1940年 (昭和15年) は、前年から始まった第二次世界大戦が本格化し、日独伊三国同盟が成立した時期です。世相に背を向けたような同書は、アルピニズムという舶来のフィルターを通さない、ありのままの日本の山に向かい合った魁(さきがけ)の書といえ以来、奥美濃の山と溪谷を愛する者の聖典となります。

 私の手元には奥美濃の山に憑(と)りつかれた先輩から遺贈された同書がありますが、時節柄紙質がとても悪く、開けるのも困難なほどです。同書の復刻版が1978年にサンブライト出版から800部限定で出されていますが、付録として同書刊行の経緯など、興味深い逸話も納められています。

 (続く)


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