大垣山岳協会

山中雑記 広域農道とは

TOPICS・随想・コラム

月報「わっぱ」 2012年12月(No.373)

広域農道とは

 11月20日のことだ。奥三河の仏庫裡(1071m)から岩岳(1051m)に向かう林道を車で移動中、突然胸ぐらをつかまれたような驚きの光景に出会った。林道を横切る道路新設工事現場だ。既に路床はできあがり、緑の山肌に太い茶色の帯が貫き、のり面の灰色の吹きつけが続いていた。看板には「広域営農団地農道整備事業奥三河第2期工事区」とあり、発注者は愛知県だった。

 一帯は標高900mを越す人工林中心の林野だ。私が通った林道は立派な舗装路だ。なぜ、さらに新道か。不可解だ。後で県事務所に聞くと、道は広域農道奥三河線で、現在第2期として設楽町西納庫の湯谷~駒ヶ原間7.2㌔の工事中。湯谷は国道257号沿いだ。2010~14年度の計画で、工事費32億円。片側1車線、幅員5.5mの一般県道並みの規格だ。

 県の担当者は、広域農道は林業専用ではなく、営農の拠点間を結ぶ農道であり、同時に一般車両の通行を考えている。だから、安全性を高めるためしっかりした規格を採用している、と説明する。

 一方、農道は駒ヶ原から以西に延びて、小田木(豊田市稲武)の国道153号まで既に完成済みだ。類推してみると、設楽町と稲武を結ぶ主要路が国道の他にもう一本欲しい、それには何もない山の中を突っ切るのが簡単だろう、という思惑があったように思える。農業振興への貢献度がさして高いとは思えない。

 公費を投入した立派な道造りが人の目の届かない山奥で秘かに進んでいる事情は今も変わらない。人工林の多い岩岳一帯の林野に守るべき山岳環境がそれほどあるとは思わないが、「山岳、至る所に道路あり」の趣に登山者たちは慨嘆するばかりだ。

(鈴木 正昭)

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