月報「わっぱ」 2012年8月(No.369)
山書巡歴 ⑤ 奥美濃よもやま話 (金子貞二 同刊行会刊)
先月号で柳翁(柳田国男)の『山と人生』を紹介したが、その後間もなく上記の本と出合った。1974年の出版で、全3巻。金子さんは18年間、奧明方村(後の明宝町、現郡上市)の学校に勤務。その間に採録したさまざまな出来事、言い伝えを生き生きと描かれた。その第3巻に「新四郎さ」の一編がある。
新四郎さは木訥そのものの人物だが、嫁は産後の肥立ちが悪く一人娘を残して他界。父子は極貧の生活を送っていたが、娘は大きくなり柿洞の長者の家へ子守りに出た。
親に似て、奉公先でまじめな働きぶり。大いに可愛がられたが、ある日、主人から娘の指輪の入った巾着がなくなったのは、お前のせいじゃないか、と責め立てられた。娘は強く否定したが、娘の柳行李の中から出てきた。もちろん身に覚えはない。主人は一度だけは許すが、今後同じことがあったら承知せんと叱った。
娘は泣く泣く家に帰って父親に事の顛末を語った。父親は「そうか。申し開きできんなら死ぬほかない」と斧を振るって娘を殺してしまった。しかし、父は死にきれず懲役に服したが、その真面目な努めぶりに早く出獄することが出来たという。後日、長者の娘が自分が仕組んだと告白したそうだ。
事の発端はやや異なるが、事件の構成は柳翁の伝える西美濃の事件とそっくり符合する。美濃の東西で、そんなに時期を違わず同じような事件が続いたのはなぜだろう。不思議である。
(高木 泰)
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