大垣山岳協会

山中雑記 下大須第2話

TOPICS・随想・コラム

月報「わっぱ」 2014年8月(No.393)

お地蔵さんが語る悲話 平木 勤

 大須盆地(岐阜県本巣市)の南端に壁のごとくそびえるチョウシ山。その東に広がる「天の原」の間近に下大須から仲越に至る古道があったことは前回書いた。この道は神崎川筋を下り岐阜市につながっていた。根尾東谷川沿いに下流部に行くには難所があり、この山越え道がもっぱら利用され。今も地形図に波線路が記されている。

 道は下大須の門脇谷から発する。左岸に渡った先の田んぼの中に「ひだり山、みぎ仲越」と記した小さな石の道標が立つ。今、辺りは植林と草木に埋まり道標を見つけることは難しい。山腹をトラバース気味に上がり尾根上に出て間もなく急斜面から根尾と美山の旧村界の峠に至る。峠付近から道は伊往戸(神崎川の最上流部)方面に下っていた。

 尾根上に石の地蔵がある。両脇に戒名が彫られているが風化が進み一部判読できない。戒名の二人は男女らしい。父の話では下大須の福寿寺を訪ねようとした女性と伊往戸から案内してきた男性らしい。二人はあと少しという尾根で遭難した。冬のことで凍てた雪の斜面に足を滑らせまず男性が滑落。一人になり先を焦った女性も同じように滑落したらしい。あわれに思った住職が二人を弔い戒名を彫った地蔵(写真①)を遭難地に安置したという。

(写真①)

 滑落したのは北側のヘジリ谷だろうか。何年か前にこの谷を歩いたが、難しい沢ではない。しかし一部が石灰岩で構成された渓相は特異な印象を受けた。道も沢もやぶに覆われているが、峠道のお地蔵さんの悲話を知った上で歩くと一層感慨深い山行となろう。ただし熊の出没地域だから注意が必要だ。僕も親子の熊と遭遇している。

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