大垣山岳協会

笹薮の赤布目印つけトレーニング・男埵山 2023.03.12

男埵山

【 一般山行 】 男埵山おだるやま ( 1342.8m 点名・大株 Ⅲ等△ ) 中津川市神坂湯舟沢 丹生 統司

 3月一般山行男埵山は藤野リーダーの下13名の参加者で行われた。当会指定美濃百山C級でありそれなりに濃い藪が想定された。支尾根も複雑に派生しており道や踏み跡がなければ地形図学習にもってこいの山である。(馬籠宿手前付近から見た男埵山)

ルート図
  • 日程:2023年3月12日(日) 晴れのち曇り
  • 参加者:L.藤野一、阿部育、後藤正、塩川眞、清水友、竹森せ、中河義、丹生統、藤井利、藤井真、村田美、宮川祐、宮澤健
  • 行程:馬籠峠7:57-尾根取付8:11-男埵山山頂11:02~11:55-馬籠峠14:22
  • 地理院地図 2.5万図:妻籠

 馬籠峠より妻籠側に少し下った所に4台ほどの駐車スペースが有り利用した。茶店バス停の付近の階段から尾根に上がると明瞭な道があった。

 以前男埵山を登った時は県境尾根を忠実に辿ったのであるが今回リーダーの計画書は標高810mの高さでトラバースしていた。営林署の作業道らしき明瞭な道が有ったのだ。

 計画書地形図に赤線で記載された予定取付き尾根を通り過ぎるので心配した。しかし、そこから約100m通り過ぎた支尾根の大きな立木に目立つ赤ペイントが有り取り付いた。営林署の作業道だろう、傾斜は強いが明瞭な踏み跡が上へ続いていた。

 やがて先ほどやり過ごした主尾根へ合流した。踏み跡は主尾根からも来ており傾斜は緩く帰りはそちらが無難に思えた。進むと尾根は馬の背状に細くなってきた。

 尾根は風化した花崗岩の表土が大雨で抜けて細い尾根が一段と細くなっており、メンバーの実力を鑑みれば下りに使うには気乗りがしないと思った。

 急傾斜で切れ落ちた細尾根が続き針葉樹林特有の木の根が尾根を覆っておりホールドは豊富だが下山中のつまずきが心配された。急傾斜を登り切って標高890mで県境尾根へ合流した。リーダーは傾斜の緩い県境尾根を地形図で確認して下山路に使用すると説明し分岐下に赤布を結んだ。正解と思った、そこには下へ続く踏み跡らしきものが確認出来た。

 県境尾根に合流してからも細尾根は続いた。用土が削られ根上がり状態のまま踏ん張って懸命にこらえている木々を何本か見た。悲しいがいつかは・・・・・

 こちらは岐阜側が崩壊している。風化でザラメ状になった花崗岩の用土は一旦抜けると浸食が止まらない。長野側を捲いて登った。

 休憩中も続図で現在地の確認に余念がない。主体的に山登りをしようとすれば地形図学習は欠かせない。学ぶ気持ちを忘れた時点で成長は止まる初心を忘れないでほしい。

 思わず立ち止まって見上げるようなヒノキ、モミ、ブナの天然木が尾根を太い根っ子で掴むように張り巡らして用土の流出を懸命に防いでいた。国土自然の防森(防人・さきもり)に日本の現在を重ねて愁えた。

 尾根では明治期に御料林測量で残された天端四隅が三角形に削られた御料局境界石を幾つか確認した。高みに着くたびに御料局三角点があるかもと期待したが発見出来なかった。おそらく県境の何処かの高みにひっそりと藪に隠れているのだろう。

 尾根に有ったコブコブの老ブナ、思わず手袋を脱いでザラザラの幹の肌を触りさすった。

 熊の寝床。動物が笹を集めて寝床にしていた跡で大きさから判断して熊だろう。写真だけでなくもっと細かく観察すれば獣毛が見つけられ熊床の確証が得られたかもしれない。後になって失敗に気付いた。ヤブ山登りをしていると熊棚を見ることはよくある。熊棚は餌を食する為に引き寄せて折った枝を尻に引き溜めたもので寝床にしているか確証はない。

 この日はM、S、Nさんに勉強を兼ねて赤布の目印つけをお願いした。赤布は帰りの安全確保とスムーズに早く下山するための技術で意外と難しい。登ることに夢中だと支尾根を見過ごし、広い急斜面だと高所に付けないと帰りに見えない。下山の視点で目印を付けることが重要である。標高1180mから藪が濃くなり背丈を越えて来た、一人が枝を引っ張りもう一人が赤布をつける共同作業である。

 赤布つけに夢中だと先頭集団に置いて行かれてしまい焦る。藪の中には倒木が有ってこれを越えていくのがまた難儀である。「オーイ」大声で呼んで先頭を確認する。

 浅い山歴の経験値ではあるが傾斜地や細尾根よりも鞍部や広い台地の笹は太くて丈が高く密度も濃く感じる。傾斜地は養分が流れるが平地は養分が溜まり栄養豊富なのだろうか。男埵山は山頂に向かい約600mの広尾根が続くが笹が非常に濃いと感じた。

 山頂到着、三角点標石柱は欠けもなく綺麗であった。点の記によれば保護石は4ケ、標石柱横の大きな自然石が目を引いた。山頂は広いのだが笹が覆って狭く13人の昼食休憩場所を確保すべく鉈で笹を刈り払った。

 落ちていた山名板を中心に集合写真を撮った。藪をものともせず登って来た仲間たち。

 登りでつけた赤布を回収しながら順調に下りて来た。最後の分岐である標高890m、リーダーは県境尾根を下るために自ら目印を残していた。全員へ此処からは登りのルートから外れることを告げた。馬籠峠まで高度で100m下る。県境尾根に進入して直ぐに尾根は急になり踏み跡が消えた、が誰も異変に気付いていない。県境尾根はもっと緩やかなはずで傾斜が急過ぎだ。コンパスで方向を確認すると北西へ下っている県境尾根は西方向だ。地形図を見れば北西へ急な尾根が谷へ落ちており此処へ進入しているのだ。こういう尾根は末端が崖になって行き詰ることが多くヤバイ。後方から大声で間違いを指摘しても誰も停まらない。やがて傾斜地は谷へ消えて往路に使用したトラバース道に出て一件落着。皆、道に出ると安堵し笑顔で馬籠峠へ降り立った。でも、これでいいのかな。

 近頃は基礎知識や基礎技術不足によるアルプスや低山での遭難事例が後を絶たない。景色やお花畑、山頂のみが目的で地道に学ぶことをおろそかにしている結果と危惧している。

 山登りは計画通りに終わらないことが多い。そうやって山に育てられていることに感謝して失敗から多くを学ばねばならない。今回峠まで最後の100mは足元の踏み跡が消えて急下降が始まり藪が濃くなった時点でコンパスで進行方向を確認すればおかしいと気付き地形図を見て修正できた。リーダーが下山路に決め赤布を結んだ地点は間違っていない。県境尾根へ進入後に北西方向が歩きやすく誘われて県境を外したと思われる。

 おかしいと察知したら立ち止まり、間を置き現在地を確認することは大事である。GPSもその手段として必要である。全員を引き連れての成り行き任せが大敵で有ることを認識しなければならない。過去の事故事例はこういう時に多く、山の神は横着を一番嫌う。

 現在地を確認し、そのまま支尾根を下降する結論に至ったとしてもメンバーに説明して見えない危険に向かう意思を共有する必要がある。今回、運よく崖はなく谷へ下りられたが山の神は何度も手抜きを許してはくれないことを肝に銘じなければならない。

 今回の男埵山には多くの目印が残されていたが当会が使用した赤布目印はすべて回収した。勿論、元々残置されていた目印はそのままにしてある。自然の山に人工物を残さない、我が会が先輩から受け継いで来た教えは現在も守っている。完


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