大垣山岳協会

タラガ谷右岸尾根ぐるり巡行記 2022.03.02

点名・松葉洞

 板取の加部集落から加部(645m△Ⅳ)と松葉洞(815m△Ⅲ)の二つの三角点を巡り、さらに東進尾根を経てタラガ林道に出て帰還した。登りだしてすぐの尾根にあった神社の跡。かつて、この山尾根は信仰の場であった。さらに炭焼きや農業材の採取地として生活の場でもあった。今、大半は人工林やその放置林ばかりだが、時には目を奪う感動場面に出会えた。明るい広葉樹のほうき林の清々しさやモミツガの大樹の逞しさ。人工林山野も長年放置すれば、次第に自然林化してゆくのだろう、楽観論もチラリ抱いた。

【 個人山行 】 タラガ谷右岸尾根 点名・加部 ( 645m Ⅳ△ )、点名・松葉洞 ( 815m Ⅲ△ ) 鈴木 正昭

  • 日程:2022年3月2日(水)
  • 参加者:鈴木正、他5名
  • 行程:
    自宅6:00⇒中央道⇒東海環状道・美濃IC⇒国道256号⇒7:50加部集落駐車地(岐阜県関市板取)仲間5人と合流(標高270m)
    駐車地8:00→8:05タラガ谷右岸尾根取り付き→8:20秋葉神社跡地→9:35点名加部→11:10点名松葉洞(写真④)11:50→東尾根→12:45上部林道出合→1:15タラガ谷林道支線出合→2:00タラガ林道(旧国道256号)出合→3:10駐車地
  • 地理院地図 2.5万図:上ケ瀬

 高速道路やその後の道路で猛烈な濃霧に難渋したが、加部に着く頃、霧は消えていた。加部在住の知り合い、NHさんと以前から計画していた山行だが、彼の山仲間4人が同行することになった。にぎやかに挨拶を交わしながら、NHさんを先頭に狭い畑を突っ切り、集落裏の尾根に取り付く。太いモウソウ竹やシイカシ類やスギが分厚く茂る暗い急斜面。道はなく、不安定な腐葉土斜面だったが、逡巡する人は誰もいない。

 まもなく、緩やかな尾根の背に出た。スギの人工林に広葉樹が混じる尾根筋には低層やぶはなく日差しも入り風もない。今冬は例年にない大雪だが、最近無雪日が続いたせいで、雪はまったく見当たらない。やがて、標高約450mの平らな尾根上に古びた金属製の鳥居が現れた(写真①)。NHさんの説明によれば加部集落の秋葉神社の跡地だった。神社は10年ほど前に加部の白山神社横に下ろされた。鳥居の北側斜面を見ると薄っすら登拝歩道の跡が見えた。幼少のころ、NHさんは何度もお参りしたという。この尾根筋は中世からの信仰の山であったのだ。

写真① 古びた金属製鳥居(標高約450m)

 みんなで手を合わせて先へ進む。スギやコメツガの巨木の間に細い照葉樹が混じる明るい尾根歩き。やっと雪が出始めた先に点名加部の4等三角点。雪の窪みに標石の頭が見えていた。スギの木は消えていて、北側斜面からヒノキの人工林が上がってきていた。

 ここから尾根幅が広がり、コナラやリョウブ、カエデ類などのつんつん梢がすっくと空に立ち上がる(写真②)。目印テープなど人工物の皆無なこともうれしい。登りきると尾根は細くなり北へ曲がる。積雪は30㎝ほど。標高700mから急登。この辺りで約400m下の地下を通る国道256号タラガトンネル(全長4571m)を横切るはずだが、もちろん何の標識もない。

写真② コナラやリョウブ、カエデ類などのつんつん梢

 尾根の左は加部から延びる松葉洞谷、右はタラガ谷の支流に200m余も落ち込んでいるが、木枝が邪魔して見通せない。だが、尾根筋に立つコメツガやモミのがっしりした大木の姿にうっとり、じっくり夢のよう(写真③)。東西に延びる主稜線に出て広い雪原をわずかに東に進むと、見覚えのある小さな「松葉洞」の山名板が細い木にかかっていた。積雪1m弱、三角点は雪の下で見えない。

写真③ 尾根筋に立つコメツガやモミ

 昨年12月下旬に私とNHさんはここに立っていた。門出南からの古道を経てここ松葉洞に達し、今回登った点名加部経由の尾根を下る予定が、コースミスで入れず、タラガ谷に急降下してしまった。今回はその雪辱戦でもあった。NHさんの事前下見のかいもあって願いが叶い、山頂で喜びのバンザーイ。さてその先は誰も歩いたことなさそうな東尾根を下りることにしよう。なにか感動の発見があるかもしれない。

写真④ 点名・松葉洞

 腰を下ろして昼食をとった後、ワカンを着けて、なだらかな雪面を下る。新雪は少なく、適度な閉まり具合。潜りは少なく、快適歩行。ただ、尾根までヒノキの人工林が覆い、薄暗い。見通しが効かないので、微妙に曲がる尾根筋の選択に苦労する。地図をにらめっこしながら尾根を進むと、南側が開けて、日差しで雪が解けて草原が露出。スギの人工林の縁に歩道のような帯が延びていた(写真⑤)。動物たちの安全な通路なのかな。暗い人工林内の雪原から解放され、心うきうき足早に少し登ると、広い切り開きに出た。林道の始発点であった。点名松葉洞から尾根筋の多くは人工林内。もっと新たな発見を期待できそうな広葉樹林内を歩きたかった。ただ林道ならば道迷いやしんどい雪中歩きがなく、ほっとする。苦を超えてこそ進歩はあるというのに。

写真⑤

 実は810mポイントの手前で林道に出る予想はしていた。最近の地理院地図には記載されていないが、私の持つ2006年版にはタラガ谷からここまで延長林道の記載があるのだ。林道の上には50㎝ほどの布団のような積雪。山側の無雪路側を歩く(写真⑥)。まもなく南側が開けて高賀山(1224m=写真⑦))やタカネ(1050m)の大きな山体、その下の方にこれから歩く林道の薄い筋が見えていた。

写真⑥
写真⑦ 高賀山

 郡上市と関市の境界尾根に出ると林道は南に曲がる。約標高750mでワカンを外して、ひた歩き。タラガ林道(中美濃林道)に入り舗装道路。林道歩き約2時間半、ほとんど休みなし。道なき尾根と林道歩き。全員晴れやかに帰還。

 この2・30年間、岐阜・愛知の低山をこまめに歩いていると今回と同じ場面に何度も出会う。尾根上に掘割り状の作業路あるいは生活路の痕跡、作業小屋の残骸、神社の祠などの人工物。その昔、山の中は生活、生産活動の現場であった。それが、山中に入らなくても平地で間に合うようになった。住民の山入りは不要となり、山は無人となった。山での信仰も薄れ、私は山上の神社を里に下ろした現場を幾つも見届けた。

 情報・科学諸技術の飛躍的な発展に引きずりまわされる現代人。コロナ惨禍やウクライナ暴発戦争。山内の自然から離脱し切ったことに遠因があるように思える。

 山に入り、あの自然林を見て触れて学ぶ生活をもう一度取り戻したいものだ。完

<ルート図>

発信:3/8

コメント