【 個人山行 】 山考雑記
点名・古道(811m Ⅲ△)、点名・五本栃(972m Ⅲ△)、点名・寒水(1132m Ⅲ△) 鈴木正昭
郡上市の山中にある3つの三角点を巡登して、人と自然との距離が遠ざかる一方であることを知る。生きるための心身を自然の中で育ててもらったのに、勝手に恩知らず絶縁して大丈夫なのか。後のしっぺ返しが怖い。
- 日程:2020年5月28日(木)
- 参加者:鈴木正(単独)
- 行程:自宅5:25⇒中央道⇒東海環状道⇒東海北陸道⇒同美並IC⇒国道156号⇒徳永⇒県道318号(寒水徳永線)⇒古道(駐車 郡上市大和町古道)
- ▽古道 駐車地(520m)8:20→9:05主稜線合流→945点名 古道10:20→11:00市道出合→11:10駐車地⇒県道318号⇒岩野・漆林道⇒11:50林道脇空地に駐車
- ▽五本栃 駐車地(860m)12:00→林道→斜面取り付き→12:40主尾根到着→12:50点名 五本栃1:05→13:25大岩→13:50駐車地⇒岩野・漆林道⇒県道82号(明宝寒水)→寒水白山神社奧ノ院(駐車)
- ▽寒水 駐車地(840m)14:25→15:45主稜線コル→16:00点名 寒水16:20→17:10駐車地
- 地理院地図 2.5万図:那留
古道川筋と明宝寒水に向う県道との分岐にある一軒家を訪ね、TTさんに点名・古道についてうかがった。昔、家の裏から尾根伝いに林業作業路があったので踏み跡はあるだろうとのこと。三角点の点の記にある俗称「冠ヶ城」について聞くと、確かにその名は聞いたことがあるという。ただ、遺構類はなにもないよとのこと。でも俄然意欲が出てきた。Tさん宅の裏側斜面に張ってあるシカ除けネットの下を潜って(写真①=上から見下ろす)尾根の背に出る。
枯葉に埋もれた踏み跡がうっすら続いている。やぶはほとんどなく、乾いた冷風が心地よい。青空が広がる好天だが、全山4.50年生のヒノキ人工林であり眺望はゼロ。テープ類も皆無で人の気配はない。枯葉の中にギンリョウソウが白い花をうつむいてお辞儀していた(写真②)。ヒノキ林に覆われた南北細長い山頂平坦部は約150mはあろうか。いかにも、山城があったような地形である。三角点はその南寄りの木の下にあった(写真③)。早速、山頂部東側斜面にある大岩や西側下部に伸びる平坦部を歩き回ったが、私の目では遺構らしきものはなにも判別できなかった看板類もない。古い錆びた鉄ワイヤーロープの束が放置されていたが、多分4,50年前の伐採作業に使ったものだろう。
下山では往路を戻り途中で北側の枝尾根に入り、古道川の上流部で市道に出た。帰宅後、TTさんに電話で問い合せると、父から聞いた山名は「冠ヶ城」ではなく「高冠城」(たかかぶりじょう)」だったという。そこで図書館で大和村史を調べると、わずかな解説記事を見つけた。平家の落人がこの山頂に築城したが、戦国時代に越前の朝倉義景の軍勢に攻撃を受けたが、持ちこたえた。地元に伝わる伝説であり、歴史史料はない。山頂部には堀や空堀、馬場らしい遺構が残る、とあった。城郭遺構に疎い私には平凡な自然地形としか思えなかった。
点名・古道の次は点名・五本栃。県道に戻り寒水に向う長い林道を北上して路側に駐車。道の大きな屈曲点の先端で分岐する素掘りの林道を進む。両側には広大な伐採跡地が広がる。林道から急峻な伐採地の斜面を約80mほどよじ登り真南に延びる主尾根にでた。北東方向に緑の園地のような伐採跡が見渡せてその上空にうっすら噴煙を上げる御嶽の姿が目に入った(写真④)。
三角点は小高い平地に白い姿を見せていた(写真⑤)。西側はヒノキの壮齢林、東側は伐採地の南限にあたり、広葉樹林が密生していた。点名の五本栃は地名でもあるようだが、謂れは不明。栃の木は幼樹が多く見られたが、大木は見当たらなかった。
下山では尾根上にある四角い大岩に登った後、急な小尾根を下り林道にでた。時間的にはやや苦しかったが、3つ目の点名寒水に向う。明宝寒水に出て寒水川沿いの県道を遡り、寒水白山神社の奧ノ宮(写真⑥)の下の空地に駐車。神社裏から東に上がる谷に入ろうとするが、ここでひと苦労、時間を損する。谷の正面には絶壁が塞いでいる。引き返して奧ノ宮の背後から高巻きして広い谷間に入ることが出来た。
後はヤブの少ないゆったり北東に上がる谷筋(写真⑦=主稜線コル直下で)。トチやサワグルミの大木。ミズナラやカンバ類の壮齢樹が新緑の枝葉を広げている。ヒノキの人工林は皆無だ。標高880m辺りで細い水流は消え足元にこれから花を咲かせるだろう大振りの葉の野草がびっしり。標高1070mの主稜線コルまでは植物たちの生気に満ちる聖なる領域のようであった。長居が許されない時間的制約が残念ではあった。途中数カ所に石積みによる小さな洞穴があった。50年ほど前まで養蚕農家が蚕種を保冷貯蔵した風穴と推測する。つまり、多くの村人が出入りする生活の場であったのだ。今は無人の桃源郷となった。コルから細い尾根を経て山頂らしくない平坦部に三角点。休む間もなく往路を戻り、ひっそりたたずむ奧ノ宮裏に下りた。
3つの三角点山行は野性味あふれる実に楽しいひと時であった。ただ山野に人々が入らなくなり、訪れるのは私たちヤブ山派の少数の登山者だけ。古城のあった点名古道もヒノキ林に包まれ放置された状態。昔は私有林だったが、林業を放棄した地元住民が売渡し今は全山が郡上市有林となった。
一方、点名五本栃への主尾根の西側に広がる伐採地は数十haはありそう。今後、ヒノキなどの全面的な植栽が行われそうだ。でも作業は高機能機械による専門企業が主役となり、地域住民たちに関わり、出番はあるのだろうか。
3山目の点名寒水へのコースは天然林豊かな沢筋だったが、尾根筋はヒノキ林が多いようだ。点石のある山頂にも南西の方向からヒノキ林が上がってきていた。
3山ともかつて近隣集落の里山であり、農林業の仕事で常に出入りした生活の場であった。今、住民の多くは近郊市街地に働きに出ている。TTさんの住む上古道地区に現存する家は25軒あるが、現在空き家は3軒だけ。多くの住民は車で郡上市の市街地へ通勤しているそうだ。
10年ほど前に集落に通じる県道318号が片側1車線に全面改修されたため、車での通勤が可能となった。山間地の道路の拡充が結果として集落の維持を支えている。同時に山野から人々が去る。三つどもえの矛盾を解きほぐす良策はないものか。
発信6/02
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