月報「わっぱ」 2013年3月(No.376)
山書巡歴 ⑫ ふるさと今島・萬所
先日、上記の本を入手した。布装丁の堂々たる一書である。聞き覚えのある地名だとお気付きなら、そうとうの奥美濃の通だ。山で言えば「サンノウの高(三尾山)」の西南端に位置し行政上は山県郡美山町(現山県市)に属している。
この辺りは割と早い次期に集落を引き払い里に下ったので今は人は住んでいない。ムラを去って何年か経たとき、往時の様子を記して後世まで記憶に留めようと出版した。これを通読するうち、面白い記事に出合った。
昔、川で海苔が採れた。海苔といえば、海のものとばかりと思っている方も多いだろう。ところば、昔は山奥でも採れたのだ。川水の中の石ころに付着しているものをむしりとり、弁当箱一杯ほどをスノコに広げて陽に干せばできあがる。
村ではこれに目をつけて、産業振興に寄与したいと、昭和3年に川海苔養殖のために、長さ60m、幅2m余、深さ60cmばかりの樋状のものをつくって水を流し続けたが、川海苔は生えてこなかった。なぜだろう。
後で分かったが、川海苔は水温が一定であることと、川底の石が火打ち石でないと付着しないそうで、どこでも採れるわけではない。
従って、川海苔が発生する場所は国内では3カ所しかないそうだ。極めて珍味とされ、昭和初年には天皇陛下に献上したことがあった。ところが、現在では上流から流れ出る鉱毒で全滅してしまったそうである。誠に残念という他はない。
(高木 泰夫)
コメント