大垣山岳協会

爺ヶ岳・鹿島槍ヶ岳・五龍岳で出会った高山植物 2021.07.23-25

鹿島槍ヶ岳

【 夏山山行 】 爺ヶ岳・鹿島槍ヶ岳・五竜岳 清水 克宏

夏山縦走は、登攀技術のほか、高山植物の名を覚え登山の楽しみを広げる好機です。

ここでは爺ヶ岳~鹿島槍ヶ岳~五龍岳縦走時に出会った高山植物をご紹介します。

標高や気候条件が、分布に大きく関わることにも注意してご覧ください。


<柏原新道(標高2千m程度)> (左から右へ。以下同じ)

  • ハクサンシャクナゲ(ツツジ科
    • 亜高山帯から高山帯にかけて分布。淡いピンクの花をつける。
    • 樹林帯以下の針葉樹林帯では2~3mの高さ、ハイマツ帯では地を這うよう。
  • クルマユリ(ユリ科
    • 鮮烈な橙色の花が緑の中で際立つ。その名は、葉が車型に輪生することから。
左:ハクサンシャクナゲ 右:クルマユリ

<種池小屋周辺(約2,400m)>

  • ハクサンフウロ(フウロソウ科
    • 亜高山帯の草原に多い。群生し、ピンクの花が草原を彩る。
    • 下部の白い花はハクサンボウフウ(セリ科)。いずれも白山の名を持つ。
    • 古くから霊山として登られてきた白山にまつわる和名を持つ高山植物は多く18 種、またオヤマリンドウのオヤマは白山のことで、ゴゼンタチバナのゴゼンは白山の御前峰を指すという。
  • ミヤマキンポウゲ(キンポウゲ科)
    • 亜高山帯の草原を群生してピンクに染めるのが、ハクサンフウロなら、黄色~黄金色に染めるのがミヤマキンポウゲ。ほかにシナノキンバイも黄色の目立つ花。花びらに光沢のあるのがミヤマキンポウゲ。花が大ぶりなのがシナノキンバイ。
  • チングルマ(バラ科)
    • 雪田や雪渓の縁に大群落を作る白い花の代表選手。地表を覆う草丈ながら、茎や根は木の性質を持っている多年草。雪解け直後に咲き、8月になると、白い綿毛となり、それが子供のおもちゃ稚児車(ちごぐるま)になぞらえたのが名前の由来。
左:ハクサンフウロ 中:ミヤマキンポウゲ 右:チングルマ

<爺ヶ岳(2,670m)稜線>

  • コマクサ(ケシ科)
    • 稜線の砂礫地は、風雪をまともに受ける過酷な場所。高山植物の女王とも呼ばれるコマクサはそんな場所で可憐に咲く。
  • ミヤマクワガタ(ゴマノハグサ科)
    • 紫色の穂花を付けるが、いたって地味で、なかなか名前を覚えられないは何一つ。
    • 花をよく見ると長いおしべが2つ飛び出し、これを兜の飾りの鍬形に見立てたのが名前の由来。
  • タカネバラ(バラ科)
    • 高山性のバラ。ハマナスに似たピンクの大きな花をつけ華麗。
    • 群落は作らないが、一株に大きな花を次々つけるので、目立つ。
左:コマクサ 中:ミヤマクワガタ 右:タカネバラ

<冷池山荘~鹿島槍ヶ岳(2,890m)~五龍岳(2,814m)稜線>

  • コバイケイソウ(ユリ科)
    • 緑色の無柄(葉脈の真ん中の筋)な大きな葉に、白い穂花を付けて群生する。
    • 一つ一つの花は華麗というわけでもないが、大規模な群落をなすと見事。
    • 画像は、23日の朝、冷池小屋から布引山に向かう途中の大群落。朝日に輝いている。
コバイケイソウ
  • チシマギキョウ(キキョウ科)
    • 岩稜帯の過酷な環境になかに涼やかな青紫の花をつける。
    • イワギキョウと同じような場所に生え、とても似ているので、二つ並べればはっきりするが、イワギキョウの葉の方がやや鋸歯状で、花は無毛。チシマギキョウは葉に鋸歯はなく、花に毛がある。画像では確認できないけれど、葉の形からチシマギキョウと思われる。白い小さな花はイワツメクサ(ナデシコ科)。地味な花だが、チシマキキョウの青紫を引き立ててくれる。
青紫の花:チシマギキョウ 白い小さな花:イワツメクサ
  • テガタチドリ(ラン科)
    • この花も同じラン科のハクサンチドリとの見分けが難しい。
    • 花をよく見ると、ハクサンチドリの方がカトレアのような形で、萼片や花弁の先端が尖っているので特定できる。テガタチドリは萼片や花弁が丸めで色がやや淡い桃色。
  • ウルップソウ(ゴマノハグサ科)
    • ウルップは、千島列島の島の名前で、いかにも北方系のたたずまい。肉の厚い光沢のある丸い葉に、青紫の穂花をつける。
    • 今回は五龍岳の北側鞍部の砂礫地で大群落を見かけたが、花期は過ぎ、唯一ハイマツの中に花が残っていた。
  • ミヤマオダマキ(キンポウゲ科)
    • 植物の名に「ミヤマ」を付けると高山植物らしくなる。
    • この花も園芸種のオダマキとよく似ている、美しい青紫の花弁状萼片の中の白い萼片が愛らしい。今回は、八峰キレットの難所のはしごの傍に咲いていて、慰められた。
左:テガタチドリ 中:ウルップソウ 右:ミヤマオダマキ

<五竜山荘~遠見尾根:西遠見山(2,268m)~地蔵の頭(1,673m)>

最終日25日、白岳から五龍岳、鹿島槍ヶ岳を振り返る。
ここも残雪にコバイケイソウが見事。

残雪にコバイケイソウ
  • オヤマノエンドウ(マメ科)
    • マメ科の1年草かと思ったら、地下に太い根茎のある多年草で、紫色の花が目立つ。ほかにこの地域でよく見かけるマメ科の高山植物として、クリーム色のイワオウギがある。オウギとは、「扇」ではなく「黄耆」という中国産のマメ科の薬草からの連想だそうです。
  • ミヤマアズマギク(キク科
    • 紫色のキク科の花で、黄色のウサギギクよりも小ぶりで群れて咲く。
    • 草地に生えているように見えるけど、尾根の岩稜上に多かった。
  • タテヤマウツボグサ(シソ科)
    • 山麓でよく見かけるウツボグサの高山版。より濃い紫の穂花が印象的。
    • 立山にちなむ高山植物は、ほかにタテヤマリンドウなど10種。白馬岳は13種とか。   
    • より都に近い伊吹山にちなむ植物は20種以上といわれる。
左:オヤマノエンドウ 中:ミヤマアズマギク 右:タテヤマウツボグサ
  • エゾシオガマ(ゴマノハグサ科)
    • ピンクの花をつけるヨツバシオガマと比べると背が高く、花は薄いクリーム色で地味。標高もやや低いところに多い。高山植物は氷河期を生き残った北方系の植物が多いので、「エゾ」の付いた高山植物も多い。
  • アカモノ(ツツジ科)
    • 小さな丸い葉を見て同じくツツジ科のシラタマノキかと思ったが、丹生さんがアカモノではとおっしゃったので調べたら、萼の付け名が赤く、アカモノだった。
    • 実がなると、アカモノは赤い実、シラタマノキは白い実なので、はっきり分かる。
  • ミヤマママコナ(ハマウツボ科)
    • これも地味でなかなか名前が覚えられない植物。半寄生の一年草で、イネ科やカヤツリグサ科の植物の根に寄生するそう。
左:エゾシオガマ 中:アカモノ 右:ミヤマママコナ

以上


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