【個人山行】岐阜県・とある山 NT
登山の楽しみ方はいろいろあって北アなど高山の景色ばかりではない。春には山菜、夏には渓流魚を追い、秋にはキノコ、季節の旬を楽しむのも登山の楽しみである。
NHから「明日はヒマでしたら舞茸採りに」と誘いの電話、すでに10月も中旬であり収穫時期を逸している。舞茸のシーズンは終わっているがナメコやヒラタケでも採れればいいか、またトレーニングも兼ねて暇潰しにもなる、OKの返事をした。
- 日程:2025年10月某日 天候 晴れ
- 参加者:NH、NT
ミズナラの根元周辺に生える舞茸はキノコの王様。マイタケは「見つけた」と言わず「当たった」と言うらしい、これに当たると「舞い踊るほどに喜び嬉しい」ことから「舞茸」と呼ばれるようになったという説が有るようだ。
舞茸は大木・老木ミズナラの根回りに生えるが岩混じりの急傾斜地が多い。今回はスパイク地下足袋とバイルの兵器を持参した。急傾斜地での収穫は不安定で大変な作業、上り下りにも威力を発揮するだろう。

舞茸の収穫域は熊の生息域と重なる。獣は急所を狙うのでヘルメットは大事な頭の防御になる。爆竹と笛、鈴は熊追い3点セット、もしクマと格闘となったら敵わぬ迄も男子たるもの座して死ぬわけにはいかぬ、刃渡り30㎝の剣ナタは山ヤの魂、護り刀である。

道脇のお地蔵様に入山の安全と今日も無事に下山できますように、出来れば舞茸をゲットできますようにと手を合わせて出発した。

谷沿いの杣道は谷底まで切れ落ちていやらしい。踏み跡が消えると石混じりの急斜面を直登した。アプローチでもバイルとスパイク地下足袋が威力を発揮、バランスと弱くなった足腰を補ってくれた。やがて傾斜が落ちると周りにトリカブトの花が多くなった。

標高600m辺りから大きな幹の木が尾根の両斜面に現れるようになると互いに目星をつけて左右に分かれた。傍まで行くとミズナラと思った木はトチやケヤキの大木で有った。

更に大木を求めて高度を稼いだ。離れても互いに声が届く程度の距離は保った。周囲にブナが多くなった。辿り着いた大木もブナだったが、ブナの根回りにも舞茸が生えることもあるので丁寧に目を凝らして幹回りを捜したが残念、何もなかった。

互いに大木を見つけて左右に分かれて直ぐだった「当たったー」の甲高いNHの声が尾根に響いた。「待てー、触るな、写真を撮ってからだ」と叫んで駆けつけた。

先ず直径が1mを越えるミズナラが目に飛び込んできた。その斜上する幹の地面から1mほど上の凹みに1㎏は有りそうな黒舞茸の株があって青苔が幹回りを埋めていた。

幹の周囲を見回すと延びた根の上にも舞茸が一株有った。周りの草が伸び枯葉も有って「舞茸」が分かりづらい。足で踏んだら元も子もない、慎重に足元に注意して動いた。

もう一株草に埋もれかけていたのを発見、これは少し痛みかけていた。一週間ほど前ならもっといい状態であった。Nによれば舞茸を発見する確率はミズナラを100本確認しても一本ほどしか当たらないそうだ。今日は運がいい。

その後は大きなミズナラの木を見つけることは出来なかった。舞茸の発見はあのミズナラの木の根元だけであった。半日ほどだがいいトレーニングになり家庭への土産も出来た。

傾斜がおちて広くなった尾根に倒木が有り二人で腰を降ろし休んでいるとアサギマダラが飛来し纏わりつき一向に離れない。それも何度も何度も馴れ馴れしく頭の上や肩に飛来した。NHがこの6日に天国へ召されたGM君の生まれ変わりでは?と、試しに指を差し出すと薬指にとまった。「GM君だ」間違いないと確信し、そっと薄い羽根に口づけをした。ビックリしたのかアサギマダラは指から離れたが、その後も暫く周辺を飛んでやがて木々の茂みに消えた。ふと、ありし日のGM君の人懐っこい笑顔が甦るのだった。

「千の風になって」というおぼろげに覚えていた歌詞が思い出された。GM君は蝶に姿を変えて会いに来た、偶然ではない、二人ともに確信し頷いて尾根を後にした。完


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