大垣山岳協会

古屋笹又谷右岸尾根より東南尾根・伊吹山 2025.01.24

伊吹山

【 個人山行 】 伊吹山 ( 1377.3m Ⅰ等△ ) 岐阜県揖斐川町春日古屋 NT

 此のところ晴天が続いており我が家から仰ぐ伊吹山南面は黒い班が現れて日一日と数を増して白い斜面がまだらになっていく。だが滋賀県は依然として登山禁止を継続中であり上平寺登山口まで車で10分の距離に居ながら毎日恨めしく見上げている。このままでは今冬の伊吹を逃してしまう、矢も楯もおられず東面岐阜側古屋から登った報告である。

<ルート図>
  • 日程:2025年1月24日(金) 天候 晴れ
  • 参加者:NT(単独)
  • 行程:さざれ石公園6:45-東南尾根取付8:51-伊吹山頂11:30 (ブナ林で45分休憩)-東南尾根取付13:43-さざれ石公園14:52
  • 地理院地図2.5万図:美束・関ケ原

 春日古屋は関ケ原から尾根を一つ隔てただけだが冬季は池田山山麓を迂回せねばならず車で約1時間を要し近くて遠い隣村だ。さざれ石公園から笹又谷を渡り尾根に取り付いた。

 実は古屋へは今冬3度目だ、1度は12月末に笹又から、2度目は21日にこの笹又谷右岸尾根である。いずれもトレーニングで出発も9時頃と遅くてドライブウェイ迄である。

 登路に選んだ尾根はさざれ石公園から最短でドライブウェイに突き上げている。この21日のトレースがまだ残っており大いに助かったが僅か3日の間に雪解けは進んで20㎝ほど少なくなっていた。笹又の耕地が低くなって見えるとドライブウェイが近いと思えた。

 先日のトレースのお陰で約1時間でドライブウェイに到達した。下部植林帯で山仕事用と思われる目印を見たが尾根の出口に古い赤布が枝に括られていた。時には利用する山屋がいるのだろう。先日隠れていたガードレールが覗いており雪解けの速さを知らされた。

 東南尾根取付きから「川戸905,5m」方向を見る。此処でドライブウェイを川戸方向へ向かっている足跡を見つけた。周囲の雪面より高く盛り上がった古い足跡だった。21日には気付かなかったので表面と踏み跡周りの柔らかい雪が早く溶け露出したと思われた。ワカンかスノーシュー跡の踏み跡は固く締まって雪解けが遅くなった現象だろう。

 東南尾根の取り付きは雪が消えておりワカンの爪を痛めぬように気遣いして尾根芯に上がった。雪はそれほどの陽射しではなかったが既に柔らかくなっていた。

 9時前に東南尾根に取付くことが出来て万事旨く行きそうであったが落とし穴が有った。標高1000mから1100mの傾斜地はカルスト地形と相俟ってカヤと思われる常緑低木帯が続き雪面下に空洞が多かった。朝の陽光を浴びた東面の雪は小生の体重を支えられず踏み抜いてはもがき100mの高度を稼ぐのに1時間を要した。踏み抜いた穴でもがいている中でワカンの爪でスパッツにカギ裂き穴をつくる失態も犯してしまった。

 周りの立ち木が太くなって常緑低木帯とカルストの岩が無くなると踏み抜きが無くなった。細いがブナを見つけやっと苦行から解放されたと感じホッとして休んだ。

 伊吹唯一のブナ林、此処まで来ればもう障害はない。一度ここでテント泊をして酒を飲みたいのだが中々実現できていない。登山寿命は幾許も残されていないがその内に・・・

 東南尾根には毎年来ているのだが新しい発見をした。連理の木であるが下で同化して中央が未接合で穴が、又上で接合し、その上からはそれぞれの幹になって枝を伸ばしていた。

 伊吹山頂台地の東端が見える台地に着いた。この台地は天気が良ければ北と東、南の眺望が抜群で奥美濃の山々と濃尾平野が見渡せ名古屋のビル群まで見渡せる絶好の展望台だ。生憎今日は雲が多く遠くが霞んでいた。

 阿弥陀崩れと呼ばれる地獄谷上部の斜面が見える。昔は我が家から目視で大きな雪庇が確認出来ていたのだが近年の暖冬でそれもない。小さなブロック雪崩の塊がデブリとなって斜面途上で止まっていた。この暖かさで小さな雪庇が崩れたのだろう。

 弥高山から山頂へ突き上げる弥高尾根が見える。表道が崩壊した後の山頂へ唯一の登路であるが先述したように滋賀県は伊吹山への登路を全て禁止した。崩壊場所とは全く異なり伊吹山で唯一冬山登山らしさが楽しめて我が家から近い尾根なのに残念だ。

 この斜面を登り切れば伊吹山頂台地東端だ。それなりの傾斜で帰りは注意が必要な所だ。ところがピッケルもアイゼンも車に忘れていることに気付いた。両器具とも使用して下降したことはないが山屋の魂を忘れるとは情けなくて年を感じた。

 御座峰、国見岳へと続く伊吹北尾根の主稜線である。この尾根は我が会の先輩たちが昭和36年から3年の歳月と延べ442人の人力を費やして藪を切り新道を拓いた。先輩たちを偲んでいるのにまったくもって邪魔な雲が景色を遮っていた。

 登って来た東南尾根を振り返った。尾根に残された分身のトレースを眺めて満足感に浸る。川戸から相川山、明神山へと続く尾根の向こうに南宮山と笙ヶ岳が霞んでいた。

 山頂台地の東端に到達した。ここには古い石碑群が有るのだが雪の下である。以前は木製の鳥居が建っていたのだが数年前に腐食して倒れていた。

 山頂台地からの奥美濃の山々である。ブンゲンと貝月山、鍋倉山が確認出来て、その奥に薄く白く見えるのは能郷白山と思われた。晴天なら白山も穂高も乗鞍も御嶽山も望めるのに残念である。

 東端から三角点の有る山頂まで高低差は少ないのだが遠くてつい立ち止まってしまう。これまで見なかった踏み跡やスノーボードのシュプールを見つけて俄かに人の臭いに触れた気持ちになった。

 Ⅰ等三角点の木柱を見て山頂に着いたと知った。石柱は雪の下で掘れば容易に見つけられたがその気にならない。真新しい足跡が小屋から来ていたので滋賀側からの登山者が居ると思われた。敢えて人に会いたい気分にならず撮影を済ますと東南尾根へ引き返した。

 ブナ林まで引き返すと南斜面で陽を浴びてランチタイムを過ごした。まだ1月というのに春山のような暖かさであった。昨年は春が短かったような、今年は春の残雪の中でタムシバの花を眺めたいものだ。完

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