大垣山岳協会

絶景の展望台・大日ヶ岳 2023.02.16

大日ヶ岳

【 個人山行 】 大日ヶ岳 ( 1709m Ⅰ等△ 郡上市白鳥町前谷 ) 丹生 統司

 「日帰りでピッケルとアイゼンが使える山に行きたい」休日が取れたダイちゃんの注文である。日帰りで堅雪の急登下降、雪稜、雪庇、トラバース等冬山の醍醐味が味わえる山、難しい注文に応える山となると水後山、鎌ヶ峰経由での大日ヶ岳となった。

<ルート図>
  • 日程:2023年2月16日(木) 晴れ
  • 参加者:丹生統、佐藤大
  • 行程:満天の湯駐車場6:38-鎌ヶ峰10:05-大日ヶ岳山頂11:38~12:34-満天の湯駐車場16:05
  • 地理院地図 2.5万図:石徹白

 昨夜少量の新雪が有ったようでキュッキュと靴音が、いや雪が鳴く、冷気が肌を刺すかなりの冷え込みだ。アイゼンを履く予定であったが新雪が滑り止めの役目をはたしゲレンデコースの傾斜地をツボ足で登った。振り返ると背後に毘沙門岳が朝の陽光を受けていた。

 樹々の間から今日のルートが見えた。左から水後山、鎌ヶ峰、そして大日ヶ岳である。油断は出来ないが鎌ヶ峰までの雪庇はそれほど大きくはなさそう、問題はその先だ。

 スキー場ゲレンデを過ぎると尾根はブナ林となった。幹肌が荒れて爆ぜたり、コブが有ったり、カビが付着したブナに魅せられて何度か立ち止まった。

 水後山の登り手前でアイゼンを装着した。雪は堅いが昨夜の新雪でクラックが隠されており何度か踏み抜いた。心臓にも悪いが年寄りは脱出するのに一苦労で体力を奪われた。

 遠く東に御嶽山見えて裾野を北に辿ると乗鞍岳が有った。御嶽山の南には中央アルプスの白い山並みが続き、少し離れて恵那山が大垣から見える屋根のような山容とは違って三角形で見えた。谷へ白い筋を幾本か落としていたが山体は樹林で黒く見えていた。

 水後山から緩やかで起伏の小さい雪面歩きであったが鎌ヶ峰山頂へは急傾斜の尾根が突き上げている。これからがこのルートの本番、楽しめる所である。

 藪に追い出されて結構際どい所を歩かされた。この日の冷え込みは厳しく無風で有ったが顔面鼻周りの肌は刺されるような痛さだった。面の皮の薄いダイちゃんは目出し帽で顔面を覆っていた。この冷え込みが幸いして雪庇の崩落を防いでくれている。

 これから向かう鎌ヶ峰への登路と雪庇、幸いに昨夜の雪で古いトレースは消されている。目指す尾根の白いキャンパスにルートを想定し指でなぞって楽しむ。

 大雪庇を越え安全地帯で緊張を解いて一呼吸、東方向長良川対岸の山を眺める。白尾山から北に延びる鷲ヶ岳、見当山の山並みと思われる。

 天空への階段を登る。鎌ヶ峰の狭い山頂は石徹白の名山の絶好の展望台である。逸る気持ちとは裏腹に辛くて何度か立ち休憩、ダイちゃんリードのトレースを息を切らし追った。

 鎌ヶ峰の山名柱は20㎝ほど雪面から出ていた。その北から西にかけての展望が一気に開けた。白山、別山、三ノ峰、銚子ヶ峰、願教寺山、ダイちゃん左手の山は芦倉山であろう。

 さらに西によも太郎から薙刀山、野伏ヶ岳、小白山、雲が邪魔しなければその左に荒島岳が見えていたはずだ。野伏と薙刀の裾野に和田山牧場跡の盆地がハッキリと確認出来た。

 絶景にいつまでも浸ってはいられない。これからがこのルートの核心部である。雪庇は思っていた以上に大きく残っている。緊張とルートを見極める術が求められる。

 トラバースしながら60mの下降、幸いに雪は堅い、手に持つピッケルのスピッツェが堅い雪を捉える感触が実に心地いい。慎重にアイゼンを思いっきり蹴り込む、残したトレースの曲線に大満足。雪山にトレースを残した者だけが知る快感である。

 トラバースから雪稜下降、傾斜に負けて楽な峰に登り過ぎないようにと言い聞かす。前谷側は大雪庇で峰に立った途端に庇は崩壊する。だが3月になり雪庇が落ちてしまうとこのルートの魅力は失せてしまう。彼方の御嶽山が無言で見守っていた。(佐藤大撮影)

 越えて来た尾根に残る二人の足跡、他人が残した踏み跡を辿るだけでは登山とはいえない。最短で安全なルートを捜し見極めて登る、それを実感するから雪山は面白い。最高の天気に傑作の落書きを残して大満足である。

 息を切らし見上げると山頂を歩いている人が肉眼で見えた。やがてスキーヤーがこちらに向かい滑り下りて来ると、今度は前谷へ一気に滑降していった。素晴らしい見事な滑降だ、あのバランスと若い肉体が羨ましかった。無くしたバネや鋼の身体はもう戻っては来ない、山頂へ最後の気合を入れた。

 大日ヶ岳山頂はアイゼンで踏まれて荒れて雪は堅く締まっていた。山頂には4人ほどしか居なかった。天狗山へ向かう尾根に幾つかの隊列が見える。先ほどまで山頂に居た人影だろう、白山、北アを眺めて天上散歩の人気コースと思われた。三角点は見えないが大日如来像は雪面から覗いていた。三ノ峰と別山、白山が威風堂々として実に威厳があった。

 石徹白の山並みである。野伏ヶ岳の手前下に和田山牧場跡が確認出来た。南に高賀山と瓢ヶ岳の山並みも黒く見えていた。伊吹山と能郷白山を目を凝らして捜したが雲が邪魔をしており確認出来なかった。

 御嶽山から乗鞍、北アの山並みである。剱岳まではっきり見えていた。笠ヶ岳の右奥に槍ヶ岳が見えるとダイちゃんが言う。言われれば黒く霞んで下部が見える様な、穂先は全く見えないが槍だろう。位置を知っているから判断したのだが目も若者にフォローされていた。

 1時間の休憩を終える頃には高鷲町のスキー場やひるがのから登って来た人、天狗山から引き返して来た人達で山頂は賑わしくなって来た。陽は高いが帰りの長い道程を考え重い腰を上げ山頂を後にした。

 2021年2月21日に同ルートを登っている。その時の記録を見れば登り4時間10分、下り3時間である。因みに今回は登り5時間、下り3時間30分である。冬山は積雪などの状況によって登山時間は大きく異なるが前回と今回は感覚的に条件に大差ないと思った。それが今回登りで50分のオーバータイムはショックだった。やはり確実に、それも大きく体力が退化している。数字は薄情だが正直である。

 帰りに気付いたが往路のアイゼンの爪痕が新雪に引っ?いたように残されていた。これは足が上がっていないから雪面に爪痕が線で残る。穂高や剱岳のような岩稜と氷雪のミックス帯が長時間続く稜線では引っ掛けて転倒の恐れがある。おそらく体力低下が原因で足が上がりきっていないからである。もう穂高や剱岳の主稜線へ厳冬期に行くことはないだろうが現実を認めるのは少なからず悲しいことである。歳はとりたくないとよく聞くがそれを気付かせてくれた山行であった。完

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