大垣山岳協会

ふるさとの山紹介・祖母山 №1 2022.12.15

祖母山

【 個人山行 】 祖母山 ( 1756.39m Ⅰ等△ ) 丹生 統司

 祖母山は傾山と共に国定公園に指定されており、2017年に祖母・傾・大崩山系ユネスコエコパークにも指定されている。長く九州本島の最高峰とされていたが正確な測量によって九重山・中岳にその地位を譲った。祖母山、傾山とも豊後大野市尾平側は深い谷と断崖で形成され岩峰群が連なる稜線は身震いするほどの登高欲をそそる。尾平登山口から黒金山尾根を登り県境稜線を経て祖母山頂、下山は宮原分岐へ周回した報告である。

<ルート図>
  • 日程:2022年12月15日 曇り後晴れ
  • 参加者:丹生統(単独)
  • 行程:尾平登山口7:05-黒金山尾根取付7:37-天狗ノ分れ10:23-祖母山頂11:50~12:06-休憩小屋12:06-宮原分岐13:20~53-尾平登山口15:58
  • 地理院地図 2.5万図:祖母山、見立


 登山口で駐車料金500円を封書に入れて車のナンバーを記入しポストに放り込み出発した。県道7号をそのまま歩いていたが間違いに気づき引き返して登山道を見つけた。鉱山跡から川上渓谷へ至る道から仰ぐ祖母山への県境稜線が大迫力で威圧するように見えた。中央が天狗岩、その手前が黒金山尾根である。先ずはそこを目指して奥岳川を遡った。

 第1吊橋、帰りに宮原から下りて来てこの橋を渡る。黒金山尾根へはこの下を潜って進んだ。

 何度か渡渉し吊り橋を渡った。奥岳川上流の川上渓谷は白い花崗岩の河床と清流が形容しがたいほど綺麗であった。いよいよ渓谷と別れて黒金山尾根への第一歩が始まる。

 尾根に取り付くと幾つか炭焼窯の跡があり石組みの窯を写真に収めた。それを過ぎる急登となって狭い尾根に木の根がむき出しになった平地に出た。標高800m、黒金八景、川上渓谷展望所との標識があった。足下がスッパリ切れ落ちており深い谷の底から渓谷の岩を噛む水音が聞こえた。

 尾根にはツガやモミの大木とツバキや石楠花などの照葉樹が多かった。以前に訪れた大崩山でもそうであったが祖母山でもスズ竹が全山立ち枯れしていた。丈が高いまま枯れている様子から獣害だけではなく他に原因があるのではと思われた。

 標高1450m辺りに有った「天狗ノ水場」この時期故に凍っていると思ったが水は流れていた。水が堕ちた付近は氷となって散乱していた。夏なら水量ももっと豊富だろう。直ぐ上に「天狗ノ岩屋」が有って良いビバーグサイトを提供していた。

 県境稜線「天狗ノ分れ」に着いたがガスの中であった。「天狗岩」を目指して数歩踏み出したが途中で気が変わった、岩の高みに立った所でこの濃いガスでは何も見えないではないか、直接祖母山を目指すことにして方向を変えた。

 ガスの中で周りが見えず地形図とコンパスで確認し北に向かって100mほど雪の着いた岩交じりの急斜面を下降した。ロープもセットされており危険は感じなかった。軽アイゼンは持参していたが使用しなかった。だがもっと楽にすっ飛ばして歩けると思っていた。事前勉強をしておらず急下降が有るとは思っていなかった。ルートを外していないか不安になってガスの中で地形図を出して再確認をする始末だった。

 祖母山頂が近くなるごとに稜線の樹氷が花開き綺麗になって来た。立ち枯れしたスズ竹も白く化粧して実に綺麗だ。

 ガスの中に現れたのは麓から見えていた岩峰群の1ツ「ウラ谷岩鼻」と思われる。宮崎側は傾斜が緩く等高線の間隔が広く白い、反対に東の大分、豊後大野市側は等高線の間隔が狭い為に地形図が黒く濃く見える非対称山稜だ。当然捲き道は全て宮崎側である。

 樹氷のトンネルを行く楽しさ、立ち枯れのスズ竹も息を吹き返して存在感を増していた。

 ところが俄かにガスが切れて青空が覗いて来た。満開の白花が青空に映えて実に綺麗だ。だが太陽が出て温度が上がると氷の花は一瞬で溶け落ちてしまう。そして樹木の下は雨降り状態で傘なしでは居られたものではない。以前にそのような経験をしたことがある。

 樹氷の隙間からやっと山頂部が見えた。早く登ってこの景色を山頂から眺めたいと思った。早く、早くと焦った。温度が上がれば樹氷は直ぐに落ちてしまう。

 気は焦れども近いようで山頂は近づかない。樹氷は重みで枝垂れ状態となって道を塞いでおり頭やザックに当たり首筋に氷が入り冷たい。風防をかぶり首筋は防いだが衣服やザックは樹氷が纏わりついて白くなった。

 山頂部の岩場だろうか、真上に見えて随分険しそうだ。雲が流れて何度か青空は消えたり戻ったりを繰り返し一気に温度は上がりそうになく少し安心した。滅多にない樹氷の撮影チャンスを逃す手はない。撮影に時間を取られて中々歩が進まないが気にならなくなった。

 大きな岩の間を抜けて梯子を越えるとまた行く手に垂直の岩が出て来た。あの上に出れば山頂へのルートが確認出来そうだ。

 岩を越えると山頂直下の壁が確認出来た。壁の上段右の方にハシゴが見える。ルートはあそこに向かって尾根を行くのだと思った。

 ところがルートは尾根に向かわず、それを捲くように豊後大野市側のルンゼに急下降を始めた。フィックスロープがセットされていなければアイゼン着用が必須だ。スリップは命取りになりそうな処だが雪も乾燥しており思ったより滑らず扱いやすくて助かった。

 ルンゼ内に降り立つと梯子が幾つか連続して上に向かっていた。ロープもセットされていた。浮石の多いルンゼだが登山者は私一人で有り気遣い無用で気楽に行動出来た。槍ヶ岳の穂先を登っているような気分で高みを目指した。

 ルンゼから飛び出ると小さな尾根の岩上に出た。その岩上にはもう1本急なルンゼが突き上げており登って来たルートとは比較にならぬほど険悪そうだった。その旨いルート取りに感服した。岩上から辿って来た白い県境稜線を見下ろして一人悦に入った。

 更に小さなハシゴや岩を越えた。岩は上に行くほど乾いて快適になった。傾斜が落ちると人声がして山頂に複数の人が居ることが分かった。

 山頂には5,6人ほど登山者が居た。やはり百名山、ウイークデーといえども竹田市や宮崎側からは人が絶えることはない山なのだ。土地勘のない山で朝から誰にも会わず人恋しさは有ったがコロナ禍で有り自重して誰にも声は掛けなかった。天気は急回復の傾向で傾山や古祖母山まで見えて絶景がベールを脱ぎ始めた。

№2へ続く


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