大垣山岳協会

高時山 難儀と共に楽あり 2022.11.03 

高時山(加子母)

 甘かった。地図で、なだらかすっきりした尾根歩きだから、やぶは軽度だろうという根拠のない想定は真逆の結果を招いた。加子母・高時山への猪の谷尾根(仮称)歩き出しのササやぶはごく薄かったが、上に上がるにつれ、激やぶ化。速度は想定ペースの半分ほどに落ちた。高時山山頂で考えた。往路を戻るのは危険だ。急遽過去に歩いた猪谷右股の左岸尾根経由を下った。難儀を重ねたが、尾根上部では壮麗夢幻の紅葉に出会った。楽は苦とともにあるようだ。

【 個人山行 】 高時山( 1563m Ⅱ△ ) 鈴木 正昭

  • 日程:2022年11月3日(木・祝)
  • 参加者:鈴木正(単独)
  • 行程:自宅5:45⇒中央道小牧東IC⇒中津川IC⇒国道257号⇒付知峡口⇒中津川市道加子母50号脇駐車地(標高約650m)
    駐車地7:40→7:45猪の谷林道ゲート→8:50猪の谷2号林道入口→9:05南東尾根取り付き(標高約970m)→1:30高時山登山道出合(1460m)→2:00高時山2:15→2:45→2:45高時山北峰→4:25廃林道横断→4:55林道出合→5:50降下歩道出合→6:35市道加子母50号出合→6:40駐車地
  • 地理院地図 2.5万図:加子母

 阿寺山系の名山の一つ、高時山(Ⅱ△)には過去、木曽越峠から5回、登山道のない付知川筋からも1回登っている。その度に地図に、高時山山頂から登山道を少し南西に下った分岐から南東に延びる長い尾根に惹かれた。高度500余m下部で林道に出ている。そこに何か極楽無辺の時を期待して、付知川沿い猪の谷林道入口近くの市道脇を出発した。入口ゲートは閉まっていた(写真①)。奥まで車で入れるかもという期待は外れた。予定より30分程損することになった。砂利道を進む。猪の谷林道は幅が広く立派。途中一台のトラックが後ろから追い越して行った。ヒノキ材の搬出をするのだろう。一帯は中津川市の猪の谷市有林(300ha)。東濃ヒノキブランドを持つ林業の先進地でもある。立派なヒノキの並ぶ林道を上がると、右手に見えた林道の枝線が猪の谷左股を渡るコンクリートの橋があった。これを進む。崩壊岩石が散らばり倒木が幾つも倒れている。完全な廃道である。すぐ先にあった古い看板には「猪の谷2号林道」とあった。

写真①

 荒れ放題の林道を進み、目指す猪の谷尾根の突端(写真②)。ザラザラの掘削法面を登り、ヒノキ人工林の暗い尾根にあがった。

写真②

 山行の成否を決めるササやぶの様子を恐る恐る見渡す。高さはひざ程度、密度も薄い部類。踏み跡はほとんどない。ただ、林立するヒノキは美林とはいえない。間伐が不十分のようで、細くて背が高い木が密に立ち上がり、暗くて周囲への眺望はない。

 快調ペースでやや急傾斜の尾根をどんどん進む。1時間ほど経つとヒノキは消えて、代わりにシロモジやカエデ類の広葉樹や照葉樹の低木が出始める。次第に広葉樹の数が増える。シロモジの黄色、カエデやモミジ類の赤。(写真③)うっとり、アングリ、しばし見上げる。コナラ或いは。クヌギの大木に寄り添うようにモミジなどの紅葉が輝いていた。(写真④)

写真③
写真④

 目は極楽の境地にあったが、足元はひどい苦境に遭っていた。ササやぶの密度が増し、背丈ほどに高くなった。ヒノキが消え陽光の量が増えて、落葉広葉樹の生育に有利な環境となったためだろう。ササは細いクマザサだが登山靴を引っ張り抑える。歩行を阻もうと猛烈に引っ張る。靴のひもが解ける。腰を下ろしひもを結びなおす。全行程で結びなおしが20回余。余分な時間が消費される。やぶ山ではスパッツを付けるという原則を今回忘れたことが悔やまれる。

 上部で傾斜は緩くなるが、やぶの圧力は衰えない。最後に猛烈なササ壁を一分けすると高時山登山道に出た。引っ張るササも消えてすぐに、北に御岳の雄姿を仰ぐ高時山山頂に達した(写真⑤)。御岳は地獄谷に薄い雪のベールを纏っていて優しく迎えてくれた。(写真⑥)

写真⑤
写真⑥

 短い昼休みの後、4年前の冬に往復した高時山北峰に向かう。ササやぶの分厚い尾根筋を進む。途中でブナの木の向こうに真っ赤なモミジの紅葉が空を彩り、しばし見とれていた(写真⑦)。薄い踏み跡を進み北峰から真南に降りる尾根を下る。尾根の左側は加子母裏木曾国有林。その境界線が走る。常にその境界見出標を目印にして厚いやぶ尾根を下る。

写真⑦

 靴ひもの結びなおしや足の筋肉痛も加えて、予想以上に時間を要し、廃林道の最南部で暗闇となった。ヘッドライトで地図を丁寧に読みとり、2回ほど通った急峻なやぶの尾根筋を下りた。消えかけた踏み跡を探しながら下りた。結局、行程計画より2時間以上も遅く市道に到達した。

 結果を考えると、周回コースの採用が正しかったかは疑問でもある。国有林境界尾根も相当なササやぶで迷いはしなかったが、相当の時間ロスを招いた。往路を戻れば枝尾根への迷いの心配はあるが、大きな道迷いはせずに猪の谷2号林道に出られ、暗闇降下は回避できたかもしれない。

 中津川市加子母地区には市有林が1577haある。その2割に当たる猪の谷市有林である。入口ゲートの近くに「東濃桧展示林 加子母市民奉仕の山」という木製看板があった。ただし、看板は腐り落ち一部地上に落ちていた。この市有林に関わる加子母森林組合の担当者に聞くと、市有林は猪の谷林道上部にヒノキの大規模造林地がある。私の登った猪の谷尾根下部のヒノキ林は結構成長して本数も多いが、林道の崩壊で材の搬出は無理なので、切り捨て間伐しか手がない状態のようだ、という。私は切り捨て間伐らしい現場を見ないまま、ヒノキ林は消えてしまった。結局、東濃ヒノキの銘木の現場は見ないままだった。

 一方、下山で降りた北峰からの国有林境界尾根は岐阜県有林と接している。この尾根筋には巨大なヒノキが各所に見られた。(写真⑧=2本のヒノキ合わせて幅1.5mほど、夫婦ヒノキのよう)この木が造林木なのかわからない。登りと下りの尾根の上部にはクヌギやコナラなどの落葉広葉樹の大木もわずかだか見られた。やはり、天然木に魅力を感じる。しかし、人工ヒノキ林でも古木大木であれば見て接する価値は高い。人が植えた木であっても、長い年月を生き抜いたのだから天然自然が育てた貴い生命なのだと思う。(写真⑨=下山時、廃林道から振り返ると、往路の尾根筋が陽が落ちた空に黒く伸びていた) 完

写真⑧ 2本のヒノキ
写真⑨
<ルート図>

発信:11/8

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