大垣山岳協会

と・ある谷で沢泊 2022.09.16-17

とある地域

【 個人山行 】 と・ある沢にて 丹生 統司

 黒部川源流の支流、赤木沢計画が台風14号の影響で中止となり急遽「と・ある沢」で沢泊を行った。46年前、この谷は水量豊富で滝壺は翡翠色の水を湛え尺イワナを落ち口に何匹も確認出来た。そこは本谷の岩場へつりや大滝を越えねば辿り着けない秘境だった。

  • 日程:2022年9月16日~17日〈金~土) 晴れ
  • 参加者:L.中田英、丹生統、三輪唯

 その谷へは天然ヒノキやミズナラ、ブナの尾根を越え、斜面の谷筋を辿って入渓した。

 キャンプの好適地を捜して沢を下る。焚火が出来る河原が近く、川床より一段高い乾いた平地が最高である。大雨が降っても水没を免れる安全が確保された平地が好地である。

 大きなブナが近くに有って牧草地のような絶好適地が有った。先ずテントを張る前に何はともあれ冷たいビールで乾杯!汗びっしょりで担ぎ上げた重く貴重なビールが五臓六腑に染み渡った。

 牧草地のようなふわふわの快適地、安眠が約束されそうだ。今回は3人用軽量テントを使用し枕を並べたがイビキなど意識外のことは無礼講。早く寝たもの勝ち。

 キャンプの好適地の条件には焚火の薪が近くに豊富にあることが求められる。倒木や流木が沢山有って薪集めは楽だった。最高のキャンプ地であった。

 キャンプ地近くの倒木にはキノコがワンサカ有った。よく見れば全て「ツキヨタケ」であった。ツキヨタケは若茸のうちはシイタケやヒラタケに似て栗色をしており成長するとムキタケに似てカサの表面が薄いクリーム色になっていた。

 これなど本当に美味しそうであった。軸を割いて見れば「黒いシミ」が有ってツキヨタケに間違いなかった。この他にスギヒラタケ(毒)又はウスヒラタケ(食用)がブナの倒木にビッシリ有ったが「見分け」に自信がなく収穫は止めた。

 沢泊の楽しみは焚火を囲んでの団欒でビールが最高に美味いことだ。飯盒でキャンプ気分を盛り上げようと、子供の頃のキャンプを思い出しながら煙に目をしばめかし火を熾した。キャンプでの火熾しは重要な技術で、谷では大概湿っぽい薪しか採取できない。それでも着火出来ねば濡れた衣服は乾かせないし暖はとれない。技術は身を助ける。

 飯盒の飯で盛り上がるはずであったが、火加減か水加減を間違えたかで、オコゲどころか「真っ黒飯」の大失敗。蓋を取ると辺り一面に焦げ臭い匂いが立ち込めるほどであった。

 飯盒中央部の黒くなっていない部分のみを他の器にとって「イワナ雑炊」にした。一人2匹の命をいただいたが焦げ飯の臭さを我慢すれば美味しく食えた。もったいない、目がつぶれると「黒オコゲ」を指でつまんで食ってみたが臭くて硬くて二口ほどしか飲み込めない。

 かくして盛り上がりに欠ける「晩餐」となった。谷を立ち昇る煙も心なしか悲しく見える。今日の失敗は赤木沢の急な中止による計画の為女性に声掛けが出来なかった。オジイと野郎でもマドンナが居れば少しは雰囲気が和らいだだろう。酒は全部飲み干したが・・・

 夜半にテントから出ると月が出ており今朝の晴天は確信していた。谷に日が差し込む頃テントを撤収した。ブナとカツラ、ミズナラに囲まれた最高のキャンプ地だった。

 谷を遡って「と・ある山」の山頂を目指す。水量が少なくなった沢中をジャブジャブ飛沫を跳ねて進んだ。イワナが追われて上流の石陰に隠れる。簡単に手掴みできそうだが思い止まった、子孫を残し往時のような魚群を復活させて欲しいと思った。

 谷水が足元の砂礫の中に消えると谷筋をそのまま詰め登った。やがて谷筋が急斜面の草付となって根曲がり竹や灌木を掴んで這い上がる。腐葉土や落ち葉の下に赤土が出ると沢靴が滑って辛かった。藪漕ぎになると宿泊装備で膨らんだザックが木枝に引っ掛かり体力を消耗した。それでも藪間に三角点が見えて最短で山頂に飛び出た、満点のルートファインディングに辛かったことを忘れた。山の虜になった者が陥る満足感であった。

 ダム建設や林道、鉄塔巡視路などの発達で嘗ての秘境は70歳を越えた老人でも入渓できる普通の谷となっていた。46年ぶりに訪れた谷は随分水量が少なくなったと感じた。またイノシシのヌタ場が異常に多いと感じた。イノシシは短足で多雪地域では冬に移動が制限される。餌の確保が制限され積雪豊富な県境(1000m)の高所では越冬が難しいと思っていた。しかし近年、暖冬による少雪で秋田などの豪雪地域でもイノシシによる被害が確認されており北限が延びているようだ。温暖化は確実に進行していると感じた、谷の水量減少もその影響だろう。

 今年は剱岳に続き黒部支流赤木沢の沢登り、双六岳~三俣蓮華岳往復登山も全て天候不順で中止となった。最悪の夏だった。せめて10月の槍ヶ岳は計画を遂行したい。神頼みするばかりの今日此の頃である。完

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