【 月例山行 】 糸瀬山 ( 1866m Ⅱ△ ) 鈴木 正昭
ミズナラの大木の輝かしい姿、巨大な天然ヒノキの立ち姿。美しく逞しい樹林を堪能できた。29年前に歩いた時の記憶は全く消えているが、多分その時もさぞ、ブナ帯林の天然の美に感激したことだろう。長野県大桑村の糸瀬山(1866m Ⅱ△点名須原)に所属する会の仲間と2度目の登山を果たした。過去の記憶の喪失に気づき、がっかりしたが、致し方ない。何度忘れても構わず、同じ感激をうるために繰り返すしかない。
- 日程:2022年7月24日(日)
- 参加者:L.堀 義、他7名
- 行程:自宅6:20⇒中央道⇒恵那峡SAで大垣組と合流⇒中津川IC⇒国道19号⇒須原駅北で林道へ⇒8:20菖蒲平登山口駐車地(標高約870m)
駐車地発8:40→9:40丸屋ノ鳥屋→11:20青ナギ→11:45糸瀬山山頂→11:50のろし岩前で昼休み12:50→2:40点名松原横手(Ⅲ△1090m)→3:20登山口 - 地理院地図 2.5万図:木曽須原
この山には1993年10月に初めて登っている。現在の登山口は標高870mの尾根中腹にあるが、当時、車は上部林道を通れず、約300m下の中央線須原駅裏から登った。今は随分楽になったが、それでも山頂まで1000mを登る激登の山である。総勢8人の中高年隊は林道わきに立つの登山口の看板(写真①)を抜けて山道に入った。
鬱蒼としたヒノキ人工林。暗くて空も見えないほど。樹齢40年ほどか、密植のままで手入れはあまりよくなさそうだ。広い沢状の林内をトラバース気味に登り、しばらくしてヒノキ林は終わる。林内は一気に明るい緑の樹冠に包まれる。ミズナラの大木があちこちに白い木肌を見せている(写真②)。さらにブナの若木が出始める。標高1000mを超えると北東に延びる主稜線の背を忠実に上がる。樹林が重なり、伊奈川の東側に見えるはずの中央アルプス主稜の眺望はほとんど開けない。
ミズナラの大木の数は次第に増える。木肌の色が黒ずみ、ごつごつと節くれ立つ(写真③)。たくましくもあり、老残の風貌でもある。中には朽ちた巨体を隣の大木に寄りかかり立ったまま果てた姿もあった。
この林相は中央高地や関東・東北のブナ帯農耕文化を生んだブナ・ミズナラ林帯である。もちろん、この高山帯でソバやアワ・キビなどの焼畑農業をしていたとの情報には接していない。ただ、昔から多くの村里の人々が足しげく山中に出入りしていたに違いない。標高約1300mからの急登部を過ぎた狭い空き地に「丸屋ノ鳥屋」の古い看板。野鳥の網猟のための小屋がここにあった。他にも2,3か所、掘った穴の跡があった。さらに上がるとミズナラは消えて、ブナ、コメツガやモミの大木が現れる。また、天然ヒノキの巨木が点在するようになる。
標高約1750mの青ナギで右側の眺望が開ける。中ア主稜が望めるはずだが、分厚い雲がかかり、足元しか見えなかった。(1993年10月10日の登山の際の写真④が出てきたので掲載します。右側が空木岳、その左下に木曽越峠があるはず)
平らな糸瀬山山頂部は針葉樹が密となり、苔むした大きな岩がごろごろ点在。そのうちの一つに山名板があり、三角点の標石が立っていた(写真⑤)。昼休みはすぐ近くの「のろし岩」の前で取る。
のろし岩は高さ8mほど(写真⑥)。アルミ製の梯子が架けてあり、最上部には鉄の鎖が渡してある。腕に自信のO嬢がさっさと梯子を駆け上がり岩登り。私も梯子の最上部まで上った。中ア主稜線がチラリと覗いたが、またもや雲が邪魔。どこか不安定なきしみを覚えたので、鎖登りは諦めて引き下がった。
のろし岩は雨ごい岩の名も持ち、明治時代までこの前で雨乞い神事をして岩の頂で火を焚いたと伝えられる(信州山学クラブ編 信州山岳ガイド)。集落のある木曽川べりから1300mも高いここまで住民の行き来があった里山であったとも言えそうだ。岩の前には小さな祠が祀ってあった。
ただ、岩の前一帯には小規模ながらヒノキの30年生くらいの幼木が密生していた。明らかに植樹された人工林だ。原生の森に不相応な行為ではないのか。
下山は至って順調。私も含め大半が高齢の隊ながら標高差1000mを2時間半で下りきった。落後不調者は一人もでなかった。
下山途中、登る際に見逃した点名松原横手に立ち寄った。登山道から50mほど離れた小ピークの枯葉の上の標石を優しくなでた(写真⑦)。地理院地図にはここから直接西に降りて林道に達する歩道が記載されているが、今は廃道となっている。
ヒノキの人工林→ミズナラ→ブナ→コメツガ・モミ。高度変化による主力樹種の変化をたどり勉強になった。温暖化が進むと、寒冷を必要とするミズナラやブナは更に高度の高い地に移動するという。でも、ここでは高度を上げる余地はほとんどない。ではどうするのか。疑念がふくれる。
29年前の写真と比べると樹林の繁茂が進んでいるように感じた。特に山頂付近は随分暗さが増したように感じた。足元のミヤコザサも随分高くなったようだ。樹林や低層植生の繁茂成長はどんどん進む。地球温暖化の樹林への影響は100年単位の長い期間の問題だが、山がどんどん暗くやぶ化する短期的な樹林の変化が気になるこのごろである。
歩きにくくなり、眺望も聞かなくなる。やぶ山派登山者として心配は尽きない。
発信:7/27
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