【 個人山行 】 十石山 ( 2524.9m Ⅱ△ ) 丹生 統司
4月3日に計画されていた白骨温泉からの十石山が雨天で中止となった。仲間と春の大展望を楽しめると思っていたので残念だ。毎日がサンデーの身であるので晴天を見計らい一人で出掛けた。どうせなら飛騨側から十石山を登り念願の十石峠小屋で一夜を過ごそう。
- 日程:2022年4月5日~6日(火・水)
- 参加者:丹生統(単独)
- 行程:後述
- 地理院地図 2.5万図:焼岳・乗鞍岳
4月5日(火)(快晴)
平湯温泉スキー場7:25-中根山9:20-金山岩下コル13:50-金山岩14:25-十石山15:45-十石峠小屋15:50
平湯温泉スキー場は既に閉鎖されていた。それでも端っこの隅に駐車して出発した。スキーヤーは一人も居ない。コースは圧雪と夜半の冷え込みでカチカチでストックは刺さらずスリップに注意して登った。右手上には大崩山と猫岳が見えていた。
右のリフト沿いは傾斜が強く敬遠し緩傾斜の左コースを辿った。それでもカチカチの斜面はツボ足にはきつくスリップすると何処まででも滑って行くように思えた。傾斜が落ちて笠ヶ岳が良く見える所でアイゼンを履いた。爪が3㎜ほどしか入らないほど固かった。
目指す十石山の飛騨側が見えたが岩が黒々とした崖で荒々しい。信州側のオオシラビソの林がある緩傾斜地とは大違いだ、右の山が金山岩だろうか。
やっとスキー場のコースを歩き終えて中根山(1870.9m Ⅲ等△)下の斜面から西を見ると平湯峠越しに綿菓子のように白い白山が見えた。峠の右の山は輝山である。
林の中は所々にテープの目印や赤い境界見出し標が有ったが多くは無かった。雪は固くアイゼンが有効で歩きやすかったが宿泊装備を入れたザックがやけに重く感じた。コメツガの林が途切れると安房峠の先に明神岳と穂高が見えて絶景が少しは疲れを軽減した。
更に高度を稼ぎオオシラビソが途切れた尾根上に出ると笠ヶ岳と槍ヶ岳、穂高、明神が一望出来た。林の木々がまばらになると陽射しを受けた新雪がアイゼンに付着してダンゴになって歩き辛い。関ケ原は一昨日雨だったが此処は雪だったようだ。
白山と笈ヶ岳から大笠以北の山並みが平湯峠の上に白い帯となって見えるようになった。
ダケカンバが現れ視界が開けると笠ヶ岳も穂高も手に取るように近くに屹立していた。陽射しが強く雪が柔らかくなってアイゼンが花魁のゲタのようになった。ワカンに替えればよかったのだが所々に有る急傾斜の堅雪に二の足を踏んだ。これが体力を余計消耗した。
前穂の手前に明神岳が有って、その右に大天井岳が、その前に常念岳が見えてきた。
ダケカンバの枝が冬の風に叩かれ雪の重みに絶え、くねってなお枝先を延ばし新芽を吹かせる。その生命力に感動した。
一昨日の新雪が春の陽射しを受けて樹木から落ちて小さなブロックを落としていた。正面は金山岩2532mで中央の斜面から右に向かってコルに上がれば主稜線である。
振り返れば笠ヶ岳から抜戸岳、双六岳、三俣蓮華岳、水晶岳と鷲羽岳、その右は樅沢岳である。槍ヶ岳は黒く大喰岳と中岳は白く、西穂高から奥穂高へ続く稜線が南岳を隠している。
金山岩山頂からの乗鞍岳方面である。手前から順に四ツ岳、大丹生岳、大黒岳、富士見岳、摩利支天岳、朝日岳、高天ヶ原と思われる。やはり乗鞍の山頂部は白く幽玄だ。
金山岩山頂からの十石山(二つ目の峰)は細い尾根で繋がっている。飛騨側は崖で十石山側の岩場付近が細いようだ。地形図は見ていたがあんなに細い所が有るとは知らなかった。
笠ヶ岳から蝶ヶ岳迄の北アルプス南部と水晶岳の黒部の源流域までの展望である。手前の中央は焼岳である。十石山に向かって先ず広い尾根を下った。
十石山へ向かい、いよいよ細尾根へ進む、アイゼンがダンゴになり気を使う。飛騨側は崖であるので信州側寄りを歩くがアイゼンの雪を何度もストックで叩いて落とした。
切れ落ちた谷の向こうの絶景に歩みを止めた、絶好のシャッターチャンスだ。我ながらいい写真が撮れたと自画自賛。
ここまでは両ストックで難無く通過した。振り返ると乗鞍岳が本当に白く幽玄だった。
下り終えて振り返った。さすがに此処は手前でピッケルを出して慎重に下った。信州側もソコソコの傾斜で有ったが飛騨側に比べればまだまし、岩場を捲いて信州タルノ沢側を下った。新雪がアイゼンに付着してダンゴになり気を使った所で有る。
ヤレヤレ安全地帯まで渡り終えてホッと一息振り返った。こんな所が有るとは想像していなかった。短い距離だが久しぶりに緊張して渡り終えた自分のトレースに魅入った。
十石山の山頂に到着、Ⅱ等三角点は雪の下で有る。周辺に真新しい信州側から足跡が有った。おそらく今日である。十石峠小屋の屋根が見える、もしかしたら誰かいるかもしれない。
既に下山したのだろう小屋に人はいなかった。小屋は北、西、南が雪で覆われているのに東側には全く雪が無かった。おそらく西風が強いのだろうと思われた。2018年10月に乗鞍高原に古い仲間が集まる飲み会があり十石山に登った。その折りに冬季の入り口は教えてもらっていた。古い友人達の何人かは此の小屋の建設に家族同伴で汗を流していた。
小屋の中は暗くヘッドランプを出してザックの整理をした。この小屋の建設には昔の山仲間が幾人か携わったが既に鬼籍に入っている者も数名いる。小屋の棚に『スキルブルム・夢は白き氷河の果てに』の本が置いて有った。1997年8月にスキルブルム峰の登頂を終えて就寝中のBCテントを氷河崩壊による雪崩の爆風が襲った。爆風はテントを40mも吹き飛ばし6名が亡くなった。内4名はヒマラヤで3ヶ月を過ごした仲間で、この小屋の建設にも関わった。そんな彼等を偲んで一夜を過ごすのもいいかなと思っていた。
5時を過ぎた頃だったろうか、音がするので入口の方を見ると若者が入って来た。夕焼けと日の出を見るのが趣味という青年は松本から来たと言った。彼に付き合い穂高の夕暮れを眺めたが陽が西に沈む頃に雲が湧いて太陽を薄く包み黄金色には染まらなかった。
午後7時前にはシュラフに潜ったが夜中に風の音で目が覚めた。強風が切妻屋根で裂かれる音を出し雪囲いの板を叩き「ガタガタ」とゆすった。小屋の東側に雪が積もっていないことから飛騨側から吹き抜ける風が強いと想像できた。明日は金山岩まで引き返した後に硫黄岳を越えて大丹生岳を往復して下山する予定であった。しかし、この強風では金山岩までの細尾根の通過が問題である。白骨温泉に下りた方が無難であるが平湯迄の交通手段をどうしよう等々気にすると眠れなかった。夜明け前にトイレに行きたくなったが防災用携帯トイレを準備していたのでそれで済ませた。
4月6日(水)(高曇り、強風)
十石峠小屋7:10-十石山7:15-金山岩8:05-平湯温泉スキー場11:10
5時半に日の出を見る予定であったが強風は治まっていなかった。青年は外に出て行ったが私は日の出は望めないと判断し食事の準備のためガスコンロに火を点けた。
青年は食事をしている頃に帰って来た。「視界は有るか」と聞くと「穂高が見えている」と言ったので金山岩を越えて帰ることに決めた。風は直ぐには治まらないだろう。それなら強風で叩かれて雪が固いうちに細尾根を越えよう。陽が高くなると雪が柔らかくなりアイゼンに新雪が付着しダンゴになって強風と両方では始末が悪い。
カンパ箱に千円を入れて小屋を出た。高く薄い雲は有ったが穂高も乗鞍も見えていた。飛騨側から強風が吹き抜けていたが雪は締まっておりアイゼンのダンゴは解消された。金山岩までの細尾根はピッケルを使用し順調に越えた。金山岩からコルまでの急斜面を下ると危険個所はすべて終えたが大丹生岳への往復は既に気持ちが萎えており止めた。
コルで見納めに穂高の写真を撮った。斜面のダケカンバと穂高の雪景色が印象的だった。ここでワカンに履き替えたが正解で陽が高くなるにつけて雪が柔らかくなった。森林帯に入ると強風からも解放された。スキー場コースの下降では傾斜地で雪が切れたので右の谷側斜面へ逃げて往路に使ったコースに合流、シーズンを終えたリフトに沿って下った。完
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