大垣山岳協会

アルプスの展望を楽しむ・乗鞍岳 2022.03.25

乗鞍岳

【 個人山行 】 乗鞍岳 ( 3025.7m Ⅰ等△ ) 丹生 統司

 ダイ君から休暇取得の報あり御嶽山へ行きたいと、御嶽は私の新人時代から会の雪上訓練が毎年恒例化されていた。2014年の噴火以来訪れていないので行きたい山だ。しかし、最近また警戒レベルが引き上げられて山頂周辺は立ち入りが禁止された。濁河温泉から飛騨頂上も考えたが車の夜間通行が出来ず御嶽山は残念した。

 御嶽山と遜色のない山となると乗鞍岳だろう。北アに近いだけ穂高や笠ヶ岳の雪景色が迫力を増して眺められる。スキー場リフトを使えば日帰り可能なのも魅力だ。

<ルート図>
  • 日程:2022年3月25日(金) 快晴
  • 参加者:丹生統 佐藤大
  • 行程:乗鞍高原第3駐車場8:30-リフト9:00(2ツ乗継)-カモシカ平9:20-位ヶ原分岐10:55-剣ヶ峰13:50~14:20-位ヶ原分岐15:40-乗鞍高原第3駐車場17:20
  • 地理院地図 2.5万図:乗鞍岳

 乗鞍高原スキー場のリフトは営業開始が9時、事前の調べで知ってはいたが快晴の乗鞍を前にして少しイライラする。リフトを二つ乗り継いで1970mのカモシカ平に降り立った。

 カモシカ平を9時20分スタート、山登りにしては遅い出発だ。明日は降水確率100%である、今日中の下山が絶対だが老いた身には辛い。大勢の登山者に踏まれて雪は固い、オオシラビソの林前方に摩利支天岳と剣ヶ峰の白い峰が青い空に浮かんでいる。

 昨年、3月14日雪崩が発生し10名が巻き込まれ1名が無くなった現場である。乗鞍は独立峰で風が強く雪面はアイスバーンになる、その上に新雪が50㎝も積もれば雪崩が起きて滑り台となる。降雪直後の斜面トラバースは厳禁、スキーで斜めに切れば雪崩は簡単に起きる。

 大きな斜面とは思わなかったが雪崩を引き起こした所は急傾斜であった。此処をスキーで切ったようだ、急斜面に入る時には雪質の見極めが大事だ。

 巡回指導員と偶然一緒になり雪崩の現場を教えていただいた。ハイ松を踏まないで下さいとも言われた。ザックに括った「ヒップソリ」を見てアイゼンを装着しての使用をしないようにと注意を受けた。実は帰りにリフトが利用出来ないのでこれを活用する予定である。

 朝日岳と摩利支天岳の鞍部、肩の小屋へ夏道沿いにトレースが延びており何人かの登山者が確認出来た。それが通常のルートである。ダイ君が直接剣ヶ峰を目指して「最短で尾根に取り付きますか」と嬉しい提案。ネットを検索して他人の軌跡を追う登山を快く思っていないのを承知である。逞しく育っている若者が頼もしくて嬉しい。

 位ヶ原分岐の下でワカンからアイゼンに換えた。雪が固いので重いアイゼンを装着しワカンとヒップソリをオオシラビソの枝に括ってデポした。ところがこれが大失敗、春の陽射しがクラストした雪面を軟雪にしてアイゼンがダンゴになり歩きにくいこと。広い雪原は果てがないほど遠く目的の尾根に中々到達しない。ダイ君がどんどん離れていく。

 尾根の取り付き迄行ったら一本立てようと言ったものの雪原の横断に50分をかけているがまだ着かない。奥美濃のヤブ山とは違う、山の大きさと年齢を痛感した。

 背後に穂高が見えている。槍ヶ岳は黒くて見えにくいがダイ君は見えていますと言った。手前の白い山は十石山で穂高の右に常念岳と蝶ヶ岳の平らな山頂が見えていた。

 やっと尾根の取り付きに到達、シュカブラ(風紋)の凹凸が激しい、今日は冷たい風が吹いてはいるが強風というほどではない。それでも時折突風に襲われ耐風姿勢をとった。

 二人だけの足跡を雪原に残し尾根を目指した。「雪山は最短ですよね」山登りのイデオロギーを受け継いだ発言が嬉しい。地形図を見て先を読め、他人の軌跡を追うな、自分の足跡に誇りを持て、大きくなれ、大きく育て・・・上部の岩を目掛けて登るのだが離され足跡が遠くなる。懸命に追うが息が切れて辛く苦しい登りだった。

 シュカブラが段差をつくり尾根は傾斜を増して来た。しかし高度を稼ぐごとにアイゼンのダンゴは解消された。冷え込みのせいだろう爪が固い雪を噛む、これが雪山登山である。

 クラストした場所はアイゼンを履いた足に力を入れて踏むと爪が小気味よく効いた。傾斜も増していたがピッケルを出すまでもないと判断した。山頂はもうすぐだ。

 山頂着、Ⅰ等△の標石柱は天端のみが覗いていた。山頂社は巨大に発達したエビの尻尾に覆われていた。レンズが汚れていたようで霞んでいる。山頂の大事な写真がボケたようで失敗だ。撮影中に気が付かず大ポカだった。

 南に御嶽山が見えて手前は大日岳である。西に白山が石徹白から大笠に至る白く長い主稜を北に延ばしていた。御嶽山の東に中央アルプス、更に東奥に南アルプスが見えていた。南アの北に八ヶ岳と北八ヶ岳の山並が有ってその北に浅間山、更に北に吾妻山が見えた。

 穂高から北アルプスの山並みである。薬師岳と黒部五郎、笠ヶ岳が重なっていた。剱岳は抜戸岳の奥に見えていた。前穂高のすぐ横は大天井岳で右端は常念岳である。穂高の手前は霞沢岳、焼岳、十石山である。

 下山は剣ヶ峰と朝日岳の間の沢を下降することにした。山頂から眺めていて最短で安全に降りられると判断した。

 安全を期してピッケルを出した。コルの真ん中から下りようとしたが中央は氷化していたので朝日岳寄りから下降を開始した。山頂から見ていた時は直ぐ雪原に降りられると思ったが結構長く感じた下降だった。

 スリップの危険のない安全地帯まで下降して振り返るとコル下と上部の斜面が光っていた。風の造形芸術のシュカブラをアイゼンでお構いなしに壊しながら下る。表面がモナカ状に凍った板状の雪面が剥がれて斜面を落ちて行くのを見ながらドンドン下った。

 広い雪原を横断して登りで岐れた多くの登山者が踏んだトレースに合流した。振り返って山頂を見ると乗鞍を登った二人の証の足跡が尾根の斜面とコルからの沢にくっきりと残っていた。

 下山にスキー用リフトが使えない情報は事前に得ていた。それで今回「ヒップソリ」を準備した。有難いことにスキー場リフトは4時過ぎに終了でコースにスキーヤーはいなかった。コース内の雪は圧雪されておりヒップソリは良く滑り有効だった。怖いくらいスピードが出たが、その内要領を得てストックでブレーキをかけることを覚えた。ただ背負ったザックが雪面に触れて雪を腰回りに集めて衣服が濡れてしまった。

 今朝のリフト乗り場に帰って来ると「トトロ」の雪像が迎えてくれた。「となりのトトロ」はテレビなどで見聞きしているがキャラクターの名前までは知らない。ダイ君が説明してくれたが覚えられない、それでも雪像に癒され心がふっと和んだ。

 乗鞍岳は観光の山と決めつけ訪れる機会が少なかった。『岐阜県のⅠ等、Ⅱ等三角点訪問』に取り組んでいた時は観光バスでの登山に抵抗があった。乗鞍岳に興味は薄かったがⅠ等三角点石柱の撮影はしなければいけない。その頃、会員のS氏から丸黒山から千町ヶ原を経由し山頂往復の誘いがあった。ハイ松が残雪に抑えられる5月を見計らってⅠ等三角点の石柱に触れた。一夜を過ごした千町ヶ原避難小屋周辺のオオシラビソと広大な雪原、融雪から顔を覗かせた石仏にも魅せられた。

 岐阜県を代表するH山岳会のK氏は著書『飛騨の乗鞍岳』で飛騨人だけでなく多くの人に自然豊かなこの山のすばらしさを知ってもらいたいと書いている。何度か乗鞍岳西面の沢登りの誘いがあり会の若い方を誘い薫陶を受ける良い機会を得ている。今年も伸び盛りを連れて行くのが楽しみである。完

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