大垣山岳協会

唐塩山~前山、雪尾根幸せ歩き 2022.03.25

唐塩山

 4年前の6月、中津川・加子母山系の前山山行での失敗は長く胸の奥底に異物のようにつかえている。それを晴らそうと、唐塩山(1608m△Ⅲ)―小秀山前山(1814m△Ⅲ)に再挑戦に出かけた。心配した激やぶは適度な積雪の下。潜りもなく、尾根筋を外さずに前山の三角点に達した。絶好の青空に恵まれ、随所で白山連峰、奥美濃連山、北ア、中アの純白の連嶺を拝することができた。もう思い残すことはない、と不遜にもつぶやいた。このコース、近年は無雪期も含め歩く人は皆無らしい。もったいないではないか。

【 個人山行 】 唐塩山( 1608.8m Ⅲ△ )、小秀山前山( 1814m Ⅱ△ ) 鈴木 正昭

  • 日程:2022年3月25日(金)
  • 参加者:鈴木正(単独)
  • 行程:
    • 3月24日(木) 自宅⇒国道41号⇒白川口⇒国道256号⇒万賀・国道257号⇒瀬之島橋⇒木曽越越谷林道⇒林道脇で車内泊(岐阜県中津川市加子母 標高約1170m)
    • 3月25日(金) 駐車地発5:45→林道→6:30唐塩山登山口→7:30点名厚谷→8:25茂岩林道横断→8:50唐塩山9:10→10:30・1780峰通過→11:45前山12:20→1:00・1780m峰通過→2:00茂岩林道出合→2:25登山道出合→2:50林道跡から降下開始→3:50河原雪原→4:30駐車地
  • 地理院地図 2.5万図:古和知・滝越・加子母
白山連峰遠望 前山山頂手前 の小尾根 から 。手前は白草山

 4年前の6月に3人の仲間と共に主稜線直下の唐塩山登山口(約1360m)から歩き出し、唐塩山までは順調に進んだ。その先で厚いササやぶに登山道が覆われて消失。右往左往するうちに時間切れとなり、前山までの中間点で引き返した。今回は登山口での前泊とした。国道を離れてすぐの木曽越林道に獣害防止柵を開けて入り約4㎞。路面に積雪が現れ始め車は進めない。ここで前泊するしかない。遠方から唐塩山山域を見ると積雪は視界に入らず、登山口まで通行可能と考えていた。前泊地から登山口までなお2㎞を残している。車を置いて歩いて偵察に出かける。積雪は各所にあり、登山口まで50分ほどかかった。

 想定の行程より往復1.5時間余計になる勘定である。夜車内に横たわると空に北斗七星やカシオペアの星座がキラキラ輝き、翌日の快晴を確信できた。

 朝、明るくなってすぐ歩き出し、見覚えのある登山口の丸太組み細道を登り、縦走路に出た。(写真①)「加子母アルプス縦走路」の消えかけた道標が立っていた。実は2000年の初めに地元の登山グループが中心となり加子母村(当時)からの支援も受けて木曽越え峠から小秀山まで登山道を整備した。厚いササやぶが刈り払われ岩場にはロープが整備され、短時間での登山が可能となった。だが、その後の維持整備が続かず、今では昔のササ原やぶ尾根に戻った。そのせいで2015年以降の所要タイムは以前の倍近くの時間が必要となった。

写真① 「加子母アルプス縦走路」道標

 縦走路を歩き出す。ヒノキの人工林だが、落葉広葉樹も混じる暗い林内。雪のないササ原の中に踏み跡が延びていたが、30分ほどで雪面が続くようになった。ただ、雪質は堅く潜ることはなく、ワカンは背負ったまま。厚谷の4等三角点も雪の下。尾根の両側は国有林であり、尾根の背には中部森林管理局の境界見出標の赤い看板と頭の赤い白い鉄製ポールがほぼ50m間隔で設置されている。つまり見出標を結ぶラインが旧登山道なのだ。(写真②=茂岩林道出合付近からの唐塩山)

写真② 茂岩林道出合付近からの唐塩山

 見出標を追って順調に進み、巨岩の間の急登を超えると唐塩山の山頂。古い補助ロープは使えない状態。登山道は消えているようだ。尾根から少し西にある三角点(点名上下島)を雪から掘り出し記念撮影。わずかな休憩の後、尾根に戻り歩き出す。北から西のはるかな遠方に白山連峰から能郷白山へと続く白い連なりがぼんやり浮かぶ。

 積雪は1mほどとなりが、締まっていて軽快に進む。風もなく、豊かな日差しのせいで寒さも感じない。4年前の山行では唐塩山の北尾根で猛烈なササやぶに降参した。斜面をトラバースして近道をしようと尾根を外すという過ちを数回した覚えがある。境界見出標を追うという発想がなかった。

 今回はコースミスを心配する必要もなかった。雪に覆われやぶもほとんどない尾根の背を忠実に登るだけでよかった。

 前回山行での引き返し点を過ぎて1780mのお椀を伏せたような峰はヒノキの大木とコメツガや広葉樹が乱雑に放置されたような樹相であった(写真③)。人の手による林野改変が自然の治癒力によって消えゆく過程なのか。2,30年後には麗しい美林に戻っているのだろうか。

写真③ 1780m お椀を伏せたような峰

 峰を越して広い雪原を下り登り返して前山への最後の狭い尾根。積雪は1.5~2mほどか。雪潜りはまったくない。小さなコブが4個。登り降りする際、岩や木枝が邪魔してやや時間を食う。でも左側(北側)への眺望がすばらしい尾根筋。やがて前山の小さ峰ふたつが見えた。まず、三角点のある東側の峰に登るが点石は雪の下らしい。シャクナゲの木枝に囲まれた地だった(写真④)。次に前山の主峰に登ると18年4月末に登った時の見覚えのある朽ちた道標を見つけた。

写真④ 小秀山前山 点石は雪の下

 すぐに少し尾根を戻った絶好の眺望地で白い連嶺を見ながら昼食をとった(写真=冒頭「白山連峰遠望」)。白草山の上方に白山連峰。さらに東に延び北アルプスに届いているだろうか、鮮明ではない。下山では唐塩山山頂を避けて途中で雪のないササ原を下り茂岩林道に降りた(写真⑤=林道から西に中央アルプス一望:前の山並みは天狗山・井出ノ小路山塊)。さらに同林道の最下部から尾根筋を下った。30度を超す斜面をササをつかみ腹ばいスタイルで降下。ササが命の綱だ。最後に緩やかな沢筋の雪原に降りた。ここで初めてワカンを装着。暗いヒノキ林内を下ると前方の木々の間に愛車の赤色が目に入った。どんぴしゃ驚き、かつ一人笑い。

写真⑤ 林道から西に中央アルプス一望:前の山並みは天狗山・井出ノ小路山塊

 予想外の積雪で思わぬ春の雪山山行を楽しめたが、あまり褒めたことではない。本来はササやぶ難行を覚悟し、長時間歩行を予想して前泊スタイルをとった。後で地元の人に聞くと、今年は稀にみる多雪だったという。それでも結構な時間を要した。無雪だったら完登できたかどうか。

 一方で、加子母アルプスコース(特に前山以南)は激やぶ廃道化し、最近では無雪期でも歩く人は皆無のようだ。積雪期でも歩いた記録はネットにもなかった。今回山行でも入山者の痕跡は皆無。夢のような雪中登山が楽しめるコースなのに。完

<ルート図>

発信:3/29

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