大垣山岳協会

追憶の溪、藤波谷にて 2021.09.05

小津権現山

【 個人山行 】 奥美濃・藤波谷から小津権現山 ( 1157.7m Ⅱ△ ) 平木 勤

  • 日程:2021年9月5日(日) 晴れ
  • 参加者: 平木 勤 単独
  • 行程: 小津権現山登山道藤波口8:00-15m大滝8:35-登山道登山道11:50-小津権現山頂12:10~13:10-「権現の森林づくり」の森13:40-藤波口14:30
  • 地理院地図 2.5万図:美濃広瀬

コロコロと変わる予報をにらみながら週末を待った。
どうやら日曜日は天気が安定しそうだ。
懐かしの藤波谷へ向かうとしよう。

明けてみれば秋色を滲ませた青空が広がる。
その下を快適に小津権現山登山道藤波口へ。
駐車地が以前より狭く感じるのは夏草が茂っているせいか。
久し振りの単独遡行に少し緊張した面持ちで出発した。

取水堰堤を越えて奥へ向かう。
水量は前日の雨のために多めだ。
しかし遡行に問題のあるような流れではなさそうだ。

すぐに谷が右に曲折する。
そこには10m滝が現われる。
過去二回訪れているがどうやって巻いたのか覚えていない。
多分、左側のルンゼからだろう、と登ってみた。
が登り過ぎた。
少し戻った時にフィックスロープを見つけた。
これを使って岩を一段上がり落口へトラバース。
足下が少し際どいのが意外だった。
ここは簡単、という意識だったのに。

滝を越えた谷の雰囲気は湿っぽく暗い。
奥美濃らしい、といえば奥美濃らしい。
過去の自分の記録を見返すと明るい谷と書いてあった。
この感じ方の違いは何なのか。
恐らく季節の違い。
過去の2回は何れも5月に来ている。
樹木の葉が茂る前で光がよく差し込んでいたのだろう。

350m辺りで谷は再び大きく右に曲がる。
そこにはこの谷最大の15m2段滝が現われる。
すっかり記憶から抜け落ちていて吃驚してしまった。
ここも左ルンゼから巻きにかかる。
ここのトラバースも今の僕には際どく感じた。

大滝の奥には見覚えのある滝が現われた。
深い渕を持った滝だ。
流木と水量のせいか少し雰囲気は違っている。
右をへつってゆるめの壁を登った。

400mの二俣は広々として明るい。
そこには石垣で幾段かわからない棚が作られている。
苔むして古代遺跡のような雰囲気だ。
ワサビ田の跡だと思うがここまでどうやって通ったのだろう。

雰囲気のいい小さなゴルジュが現れ、へつって越えていく。
あまり遊びを入れないつもりだったがこういう所は遊びたくなる。

ミニゴルジュの奥には流木が刺さった6m滝。
右から巻くが上で降り口が見つからない。
ロープを出そうかと用意しかけたが
ガレ斜面を奥にトラバースして河床に降りることができた。

また石組みが現われた。
その裏側の一枚岩には小さな洞があいていた。
人工的な感じで近づいてみた。
特に何もなかったが石組みとセットで何かに使われていたのだろうか。

標高を上げると鬱屈した雰囲気がなくなって
樹林の様子も徐々に良くなる。
遡行する気持ちも軽やかになっていく。

540m付近の枝沢にはすばらしい連瀑が見えた。
思わず誘われそうになる姿だ。
どこまで続くのか気になる。

600m前後からは登りごろの滝が続くようになる。
2条5mは右側をシャワーで。
続く6mは左から取り付いた。
なるべく濡れないでいこうと登り始めたのに
何時の間にやら全身水浸しだった。
でもそれが楽しい。

下流部には見られない滑滝も幾つか現われ目と身体を楽しませてくれる。
不図見れば大きな栃ノ木が斜面に根を張っている。

こんなに豊かで潤いのある谷であった事を改めて知った。

最後の大滝は8m。
穿たれたような暗い岩の割れ目に水飛沫を上げている。
これをどうやって越えていくかが今回の一番の課題だと思っていた。
しかし、目の前にするといくらでも巻いていける。
拍子抜けした感じだ。
イメージとはいい加減なものだ。

上部でも水量豊かな小滝がまだまだ楽しませてくれる。
それを包み込む樹林の雰囲気が意外にいい。

少し植林が混じるがそれでも十分心を満たしてくれる。
この沢に抱いていたイメージが変わった。
なだらかな沢筋が癒しの空間へと導いてくれるようだ。

詰めは植林が目につく。
5月頃はその植林斜面にイワウチワの群落が広がる。
しかし今は無味乾燥として味気ない。
それから目をそらして沢筋を進むと灌木の急斜面。
すぐ脇の登山道も無視してなるべく沢筋を最後まで追った。
登山道に出た所で単独の登山者が登ってきた。
2、3言葉を交わしたが
あちらにとっては珍客の訪れが迷惑だったろう。

足下を履き替えて5分程で山頂に到着。
以前とは随分と雰囲気が変わり見晴らしが良くなった。
先ほどの単独登山者はすぐに花房山へ向かった。
広い山頂を独り占めにして休憩に入った。

しばらくすると小津方面から一組登ってきた。
声をかけられたので見ると山協のNi夫妻だった。
晴れたので急遽クマタカを見ようと登ってきたのだそうだ。
それにしても仲睦まじい。

お二人に別れを告げて登山道を下っていく。
植林ばかりで愛想がない、と思っていたが池があったり、
保護樹林があったり、
涸れているのに尚倒れないブナがあったりで結構退屈はしない。
途中の林道は整備し直されているようだ。
ひょっとしたらここまで一般車で来れるのだろうか。

今回、遡行しながら思い出していたのは
14年前に単独で初めて訪れた時の事より
10年前に大垣山協のメンバーと賑やかに訪れていた時の事だった。
あの時のメンバーは引っ越されたり、年齢的に沢を離れたり、
会をやめられたり、亡くなられたり。
同じ顔ぶれでここを訪れる機会は二度と訪れない。
そう思うとあの時がこの上もなく愛おしく感じるのだった。

<ルート図>

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