大垣山岳協会

母野洞~片知山あれこれ縦走記 2020.11.05

母野洞

 私は以前にも述べたが、長い尾根筋を歩く登山が大好きである。山頂あり峠あり尾根分岐あり。樹林や草花の様相の変化。左右遠方への眺望。今回歩いた郡上市木尾から母野洞(613m)を経て片知山(966m)までの尾根筋は約5km。かつての里山山域だが、今は歩く人もなく、自然復帰を進める尾根筋を思いっきり歩き通した。特に、東に御嶽、北ア主峰、西に越美国境の銀嶺が見渡せる峰では感激の一語。ただ、そこが中電の巨大鉄塔のそびえる地であったのは不幸ではありました。

【 個人山行 】 母野洞はんのほら(613m) ~ 片知山かたぢやま(966m) 鈴木 正昭

  • 日程:2020年11月5日(木)
  • 参加者:鈴木正昭(単独)
  • 行程:自宅5:30⇒中央道・東海環状道⇒美濃IC⇒国道156号⇒6:50母野駅脇駐車地(郡上市美並町木尾 標高約110m)
    駐車地7:10→8:45母野洞(点名小洞 △Ⅲ)9:10→関電送電線下通過→10:25中電三岐幹線鉄塔10:45→12:00最低鞍部→12:40片知山(点名浦山 △Ⅲ)1:05→3:00三岐幹線鉄塔→3:20上部林道出合→5:00木尾集落→国道156号の歩道→5:40駐車地
  • 地理院地図 2.5万図:苅安

 長良川鉄道の母野駅前の空地に駐車して、国道156号を横断して駅ホーム(写真①=右側に尾根突端)に上がる。駅と言っても古いコンクリートの台があるだけ。線路を越して谷筋に下りて、派生する尾根の先端に取り付く。この尾根は母野洞、片知山を経て瓢ヶ岳まで続く郡上市と美濃市の市境である。登り始めてすぐ先に円空仏を安置した観音堂が立つ。5年前に母野洞に登った時が懐かしい。

写真① 右側に尾根突端

 昔の古い歩道の跡がしっかり付いている。快晴だが、樹林厚く日差しは届かない。汗ばむ身体を冷気が冷やしてくれる内に、白い三角点石が立つ母野洞山頂に立つ(写真②)。2010年に西側の美濃市野田洞から登ってから3度目。以前なかった山名板が2つも木枝に付いていた。いずれも「母野洞」だが、この山名は登山者たちが付けたものらしい。ここから先の尾根筋には踏み跡はない。直ぐ先で東側が開けて御岳の白い峰が輝いていた。その後は広葉樹二次林に視界が塞がれ続ける。

写真②

 先を急ごうとするが、地図とコンパスを見続けながらの歩行はスピードを上げられない。市境尾根には小さな曲がりがいくつもある。東側の長良川流域と西側の片知川流域の見分けは樹林の間から判別でき尾根筋を確認できるのだが、それでも一度間違いかけて、気づいてトラバースしてコース復帰した。

 東側の郡上市方向の遠くから「緊急地震速報です。まもなく地震が発生します」というラウドスピーカーの音声が聞こえてきた。すぐ数秒後に今度は西側の美濃市方向からも同様の音声。すぐに気象庁の訓練だなと思った。帰宅後調べると「津波防災の日」であった。知らなかった。あの時、下界の日常世界に引っ張り込まれ、うるさいなと思ったが、あとで山上でこそ緊急避難行動を訓練しておけば良かったと反省致しております。

 歩いた尾根には4カ所で送電線が横切っていた。コースのほぼ中間で3本目の関電の鉄塔が、さらにその後方約90m高い峰に4番目の中電の鉄塔が並んで見えた。(写真③=手前が関電、後方山頂に中電)特に印象的だったのは標高約640mの丘にそそり立つ中電の「三岐幹線」の巨大鉄塔。芝生の様な草原で覆われた広い平地の上に鉄塔があった。東西両方向とも遮るものはない。(写真④は帰路での午後3時に東側を撮ったもの)中央上部に御岳、その左手に乗鞍岳、さらに北ア主峰群の雪嶺が見える。夕陽を受けて鉄塔の一部と私の小さな黒い影が前方の山肌に映っている。自分が山川草木の内に溶け込んでいるように感じる。西側は霞みがかかり、不鮮明だが、越美国境上の名峰難峰らしい薄青い連嶺が横たわっていた。

写真③ 手前が関電、後方山頂に中電
写真④ 帰路での午後3時に東側を撮ったもの

 鉄塔平(私の仮称)を後にして低いミヤコササ原の尾根を進む。東側斜面はヒノキの人工林。獣道らしい跡がうっすら続いている。各所につぶれかけた黄色のプラ杭が見える。市境表示の杭らしいので、逃さず探しつつ進む。目印類は黄色の古テープが数カ所にあっただけ。やがて、ササを刈り払った立派な歩道に出た。歩道を駆け下り最低鞍部に立つ。この辺りで口板山からの登山道に出合うはずだが、確認できなかった。ササ原の中の急斜面を登ると古い赤テープがたくさん現れ出す。登山道にしては整備不足で難度は高く、巨大な岩の間を縫う所もある。

 ササ原が途切れて突然、広い平に出た。目の前に大きな三角点が立っていた(写真⑤)。山名板も道標もない。2002年版のヤマケイガイド本によると、山頂に電波反射板があった。今は撤去されている。忘れ去られ寂しげな頂だったが、一方で稀少価値が高まったとも言える。

写真⑤

 想定時間をオーバーしているので、わずかな休息の後、ササ原の往路を戻り出す。かの鉄塔平で腰を下ろして絶景を楽しむ。御岳や乗鞍岳の幽遠かつ秀麗な姿を記憶に留めようとじっと見入るうちに、視界に入る送電鉄塔の多さが気になった。長良川筋の山肌に白い針のような鉄塔が無数に散らばっている。

 生活機材や情報通信の驚異的な進歩で電力エネルギー消費量は増大を続けた。その結果として過去数十年の内に白い針は増えるばかり。省エネや効率化により、消費動向は近年やや減速しているとは言え、油断できる状況にはないように思う。狭い国土の緑の肌があのような無数の白い針に突き刺されている風景を見ると胸が痛む。送電鉄塔なしでも電力を送電できる技術はないのだろうか。いずれにせよ、私たちの身の程に合った電力消費抑制を求める必要はないか。でないと……。眼前の絶景が未来への不安を次々に引き出してくる。

 尽きぬ思いにひとまずふたをして、下り出す。往路を戻るのを避けて、鉄塔平のすぐ東下まで来ている廃林道に降りることにする。母野洞を経由する往路は上り下りがきついし、尾根間違いもあり得る。鉄塔巡視路を下り簡単に林道に出たが、間もなく林道が大岩の前でぷっつり消えてしまう。下りがどこにもない林道はあり得ない。戻ると、途中で下方へ分岐する林道が完全に消失していた。土石流の仕業か。その下方に林道の続きが見えた。そこへ下り倒木や落石の多い廃林道をどんどん行く。中間辺りで舗装路となり、林道入り口の頑丈な鉄製ゲートを開け、木尾地区の一般路に出た。白い木柱には「宮奥露洞林道」とあった。

 木尾駅のある集落中心部に入ると薄闇が迫ってきた。真っ暗闇の国道156号の歩道を早足で歩いた。歩き始めて駐車地まで10時間半。この間、出会った人はゼロだった。

<ルート図>

発信:11/9

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