大垣山岳協会

錫杖岳 前衛フェイス 左方カンテ登攀 2020.10.18

錫杖岳

【 個人山行 】 錫杖岳 前衛フェイス 左方カンテ登攀 中田英俊

  • 日程:2020年10月17日(土)~ 18日(日)
  • 参加者:中田英、会員外 Kさん、Hさん
  • 行程:
    • 10月17日(土) 小牧 14:00出=現地 道の駅で前夜泊
    • 10月18日(日)
      • 中尾高原口駐車場 5:20出発~
        「前衛フェイス左方カンテ」ルート取り付き 8:00~
      • 1ピッチ目登攀開始 8:30~
      • 2ピッチ目登攀開始 9:00~
      • 3ピッチ目登攀開始 9:30~
      • 4ピッチ目登攀開始 10:30~
      • 5ピッチ目登攀開始 11:20~
      • 6ピッチ目登攀開始 12:30~
      • 7ピッチ目登攀開始 13:10~
      • 登攀終了 13:40
      • 「注文の多い料理店」ルート 懸垂下降
      • 1ピッチ目下降開始 15:30~
      • 2ピッチ目下降開始 16:00~
      • 3ピッチ目下降開始 16:30~
      • 4ピッチ目下降開始 17:20~
      • 下降終了 17:40
      • 下山完了 20:00 = 小牧到着 23:40

 今年の八月、会の山行で北アルプスにある錫杖岳に登ってきた。その途中、所謂「前衛フェイス」と言われる大岸壁を登るクライマーの姿を目にした。それを呆然と見上げる私の姿を見たのか、「俺たちには無理だ」とある方が言った。否定はしなかった。そりゃそうだろう。言いたくないが高齢化の進む我が会。そういう自分もはや五十路をむかえた初老の身である。いくらゲレンデで岩登りの練習をしていたところで、こんな全国のクライマーの垂涎の壁、前衛フェイスなど登れる分けが無い。遠くから憧れているだけでいい。遅すぎたのだ。そう思っていた。

ある日、いつもの岩登り仲間と美濃加茂にある高木山で練習していた時の事。仲間のH女史が「前衛フェイス登りたいね」と笑顔で言う。「俺も行きたいけど無理だろな」と僕が言う。するとKさん、「無理じゃないよ。じゃ3人で行こう!」と言い出した。それも山行予定日は一週間後の18日。なんだかキツネにつままれたような気分で前日の17日を迎えた。しかし無情にもこの日から本降りの天気。高山方面に向かうも雨は止む気配は無い。予報では18日は晴れとの事だったが、前夜泊での道の駅に到着しても雨のおさまる事はなく半ば諦めムードで床に就いた。ところが起床すると満天の星空。一気に3人のテンションがあがる。いそいそと支度を済ませ中尾高原口の駐車場に到着。前日の悪天にもかかわらず、駐車スペースにも困るような混雑ぶりに驚く。はやる気持ちをおさえながら登山届けを提出しスタート。

8月の会での山行で、クライマーとの分岐となる箇所までの道には迷う事もなく到着し、ついに前衛フェイス左方カンテの取り付きについた。

Kさんに「リード(下部で確保してもらい支点を構築しながらトップで登る)をやれ!」と言われた。Kさんいわく、「トップロープ(リードが構築した最終支点からザイルを下ろしてもらい登る方法)で引っ張りあげてもらっていては何も残らないよ!」との事。結局全行程で私が6ピッチ。H女史が1ピッチのリードをまかされた。前日の雨にもかかわらず、岩は殆ど乾いており、見た目よりかなり難度の高い(私にとっては)クライミングが始まった。

 今回、会からトランシーバーを借りてこの登攀に望んだ。これが大正解で、他のパーティがクライマーとビレイヤー(確保者)同士のコールが聞こえず、お互いのコミュニケーションがとれない様子でいる中、我々はトランシーバーのお陰で常にお互いの様子がわかり、危険を回避出来たと思う。しかしルート自体、ホールドやスタンス等しっかりしているようなのだがとにかく高度感が半端ではない。滑ったら、手がかりが外れたら、と考えるとその瞬間に体が固まってしまう。

 かつてこの壁には沢山のボルトやハーケンなどの支点が打たれていたという。それは登る人にとっては安易に支点が取れて比較的登りやすかったようだ。だが数年前にその支点は撤去され、今はNP(ナチュラルプロテクション)という、岩に何も残さない支点構築方法が主だった支点の作り方になっている。その道具として「カム」という道具があり、岩の割れ目にそのカムを差込み支点構築して登っていく。

 今回、会の大先輩、山内さんに頂いたカムを使う。上手くルートを取れればカムもしっかりセット出来て良いのだが、変にルートを外れると支点を取る場所もない。登りの下手さが露呈する。情けない話だが数回「落ちる」と思った瞬間があった。特に3ピッチ目はルートを間違え自分もさることながら後続に怖い思いをさせてしまった。

 3ピッチを登り終えたすぐ横のとんでもないスラブ(1枚岩状の壁)に若者がとりついていた。上部はハングしている。後でこのルートの事を理事長に聞くと、佐竹前理事長、丹生理事長がこの壁を登ったとの事。正直どうかしていると思った。5ピッチ目を登った大テラスでは「注文の多い料理店」ルートを登るクライマーと合流する地点だ。お互い干渉しないように気をつけながら最後の6,7ピッチを登りきった。

 8月に錫杖沢から見上げた壁に今張り付いている。そう思うと、何かこみ上げてくるものがあった。Kさん、H女史とお互いの健闘をたたえ合った後、下降開始。しかしこれが思った以上に時間がかかった。我々を先行していたクライマーが懸垂下降の順番待ちをしている中、下降に使うルートを登ってくるクライマーもいる。長い待ち時間と、途中ザイルが岩の間に挟まり抜けなくなるなどトラブルもあり、どうにか懸垂下降終了したのが18時前。ヘッドランプのお世話になり下山した。

 諦めていた憧れの大岩壁の登攀。Kさんの誘いがなければ実現しなかった。帰りの道中、今回の反省点やお礼の言葉等を交し合う中、齢70のKさんの言った「バトンだからね。僕も先輩に連れてきてもらった。だから今回僕は君らを連れてきた。次は君らの番や」という言葉。私の1才年下のH女史の言った「私頑張る!必ずうまくなってやります!」の言葉を何だかフワフワした心持ちで聞きながら夜の高速を岐路についた。

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