大垣山岳協会

点名 荒草、ドンベ 周回記 2020.10.14

ドンべ

点名 (あら)(そう)(960mⅢ△)ドンベ(937m)周回記 鈴木正昭

 徳山ダムの出現により、陸の孤島となった門入地区の奥山、荒草とドンベを回る念願のコースを踏破できた。人跡消えて薮繁って久しい尾根筋だが、かつては焼畑が広がり、集落間の通商の道が通り信仰小祠もあったことを知る。5,60年前までは奥地林野まで生活の場とせねばならなかったが、科学技術の進歩により人々の山野出入りは不要となった。それでよいのだろうか。自然山野の中で人類は進化成立したのに。揺りかご山野にガサゴソ入るわが山行は日常的行動への本能的な反発行動かもしれない。

  • 日程:2020年10月13日(火) ~ 14日(水)
  • 参加者:鈴木正昭(単独)
  • 行程:
    • 10月13日(火) 午後に岐阜県揖斐川町門入のSI氏の山荘着
    • 10月14日(水) 6:45山荘発→西谷道路→インベで尾根取り付き8:00→10:45点名荒草11:30→12:20・1030m点→南西尾根→1:20ドンベ(937m点)1:40→2:45NTT門入アンテナ基地→廃林道跡→3:55西谷道路出合→4:40山荘
  • 地理院地図 2.5万図:美濃徳山

 久しぶりに旧知のSIさんが徳山・門入に持つ山荘を訪れる機会を得たので、揖斐川西谷の左岸上にある点名荒草(あらそう)に登る計画だ。今は知る人も少ない山だが、かつては村人が足繁く出入りしていた山域である。

 廃屋ばかりの門入中心部から西谷左岸側に旧戸入へ通じる西谷道路(仮称)を歩き出す。まもなく、道路左側の山斜面から突然大型動物が飛び降りて目の前道路を渡り、西谷河原に降りていった。姿を追うと、大型のカモシカのようだ。ずんぐり胴体に太い角。すぐ草むらに姿を消した。天気は快晴の予報だが、河原を覆う朝霧で薄暗い。インベ集落跡で道路からドウオ(堂尾)という名の尾根に取り付く。広葉樹二次林の中の細い獣道を上がる。人の踏み跡はない。細い木枝が小うるさい。

 高度50mほど上がると尾根は緩やかとなり、スギの人工樹林となる。光の差さない人工林内は薮密度は下がり歩きやすい。でも直ぐに広葉樹二次林となり、シロモジの小枝の遮断機を跨いだり避けるのに手間を食う。

ミズナラの木の根本を白っぽいマイタケの束が取り巻いていた。持ち帰りたかったが、長い道中での重荷になるので、見逃して先へ進んだ。後でSIさんに聞くと美味でかなり高級品らしい。

 標高約700mでシカの群れ(7、8頭か)が目の前30mを右から左の斜面をピーッ、ピーッと叫びながら風のように疾駆。つやつやした身体の躍動感がうらやましかった。危険だから、人里に下りるなよ、とささやいた。堂尾尾根には昔、お堂が立っていたようだと「徳山の地名」(水資源機構編)にある。MIさんの97歳になる母は子どものころ尾根のスギ林のお堂の周りで遊んだ記憶があるそうだ。私は平坦地に着くたびに探し歩いたが、遺稿物はなにも見つからない。一方で、踏み跡やテープ類など人の歩いた痕跡がないのはうれしいことでもある。

 標高950mから尾根が狭まり左斜面下に小さな池が見えた。その先に広い山頂平地があり、最奥のブナやミズナラの大木の下に点名荒草の点石が頭だけ出していた(写真①=点石の前で)。人工物は何もない。小さな白い頭だけの点石をよく見つけたものだと我ながら感心する。

写真① 点石の前で

 ここで往路を戻るか左周りの尾根を周回するか迷った。戻るために目印テープは付けては来たが、尾根分岐数カ所で迷う心配がある。周回でも難しい分岐が何カ所かある。ただ、下部にある廃林道は結構使えそうだ。結局周回を決断し、ブナの大木の並ぶ北西尾根を進む。広葉樹林ばかりなので、うるさい薮が待つ。小さな登り返しが3回ほど。やがて問題の1030m点に至った。

 ここで直角に南西尾根に曲がるのだが、厚い樹林や薮で尾根が見えない。腰をかがめて少しずつ歩き、一番高い尾根筋を探りながら下りる。踏み跡も全くない尾根筋を約70mを下り登り返して、6年前に級友IS君と訪れたドンベの見覚えのある沼に達した(写真②)。先へ進むため、沼地に足を不注意にも踏み入れた。両脚ともズブズブと膝下まで落ち込む。ドンベあたふた泥沼地獄。「ドンベ」は60年ほど前まで門入の住民が焼畑をしていた「ドンベアラシ」の地名。937m点のすぐ西側平坦地でヒエ、キビ、アズキなどを栽培した。元門入住民のSI氏は中学生時代、休みの日に父母が小屋に寝泊まりして耕作していたドンベに2時間かけて登り、収穫物を背負って下りた。インベ出身のMIさんによると、荒草南方の標高900m前後の平坦地でも門入の6軒の家が焼畑をしていたという。

写真②

 焼畑の他にもドンベを貫く尾根には門入と揖斐川東谷にある山手集落を結ぶ歩道が通じていた。牛の背に物資を積んで運ん道であり、門入の背後にある山の名を牛尾山と呼ばれる。

 ドンベから尾根を南進すると、巨木ブナの楽園が広がる(写真③)。門入の天然林(共有山林約2700ha)は王子製紙により60年ほど前に皆伐された。この尾根の一部がなぜ皆伐から免れたのか。尾根筋は焼畑対象地はないという。住民たちの保護希求の気持ちが通じたのだろうか。この先で尾根は大きく分岐する。南東に向う尾根を下り始めると、大木ブナは消え、代わりにブナの若木や壮齢木が広がる(写真④)。大きい木で直径30cmほど。皆伐後に自然更新により育った木々である。若い力みなぎるさわやかさ。自分に照らして見ると孫みたいな存在かな。ゲームにばかり熱中する我が孫と比べると将来が楽しみである。

写真③
写真④

 再生ブナ林の尾根を30分ほど下ると、下方にアンテナ塔が見えた。その前に下りると「NTT西日本 門入アンテナ基地」と看板にある。そこから北側に越美国境尾根に並ぶ名峰が見渡せた。冠山、若丸山、能郷白山、磯倉。白雲の下に濃紺の連嶺が横たわる。

 アンテナ下部でインベ谷奧から下りてきた林道に出合った。目指した廃林道である。かつてインベ谷で大規模なスギ造林をした林業会社の作業道で地形図にも出ている。急斜面をジグザグして降下する。路床は堅固だが、倒木や落石で車は通れない。足早に駆け下り、西谷道路に出た。門入の少し手前の西谷河原の草むらに大きなイノシシを発見(写真⑤)。しきりに沼地を鼻で掘って何かを食べていた。サル、カモシカ、ニホンジカ、イノシシ。野生動物たちの歓迎に感謝しつつ山荘に戻った。完

写真⑤
<ルート図>

発信:10/19

コメント