月報「わっぱ」 2015年3月(No.400)
冬帽子の遺影を見て思うこと
昨春のことだ。大垣市民病院第三病棟へ先生を見舞った時、文庫本を片手に仰臥して「これしか持てないのだよ」と仰った。それは、『深夜特急(沢木耕太郎著)』だった。耕太郎は著書の中で「ここから人生は旅に似ている。あるいは旅は人生のようだという認識が生まれる」と書いている。今思うに先生は深夜特急の旅をなぞりながら、八十有余年の人生の来し方を追慕していたように思う。
高校で先生の授業を受けた何人もが「先生はいつも授業中に山の話をしていた」と言う。当協会では後輩の指導に尽力され、ヒンズークシュに遠征出来るまでに山への情熱を燃やし続けてこられた。告別式の祭壇に掲げられた遺影の中で先生はいつも見かけた冬帽子を被っておられた。
追憶を閉じこめるかに冬帽子
冬晴れや小津三山にこだま無し
(渡辺 一光)
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